少子化は日本以上?- 外国人受け入れを拡大する台湾

この記事は約6分で読めます。

少子化は日本以上?- 外国人受け入れを拡大する台湾の現状

台湾は急速な少子高齢化による労働力不足を解消するため、海外からの未熟練労働者の受け入れを拡大しています。2024年時点で、既に東南アジアから70万人以上の労働者を受け入れており、最近ではインドとも協力覚書を交わしました。これは、台湾側が人数や業種を決定し、インド側が募集と必要な訓練を行うという、未熟練労働者受け入れの覚書です。

台湾の2022年の合計特殊出生率は0.87と日本の1.26よりも低い水準で、2026年には人口の20%が高齢者になると予測されています。このため、労働力不足が深刻な問題となっており、特にサービス業や工業分野では約21万8700人が不足していると言われています。

2024年現在、台湾ではインドネシア、タイ、フィリピン、ベトナムからの低熟練労働者が約72万8000人働いており、製造業や家庭内介護などで経済や生活を支えています。しかし、今後も安定した労働力の確保ができなければ、台湾経済に悪影響を及ぼす可能性があります。陳建仁行政院長は「競争力を維持するためには、労働者の送り出し国を増やす必要がある」と述べています。今回のインドとの覚書を含め、台湾は外国人労働者の受け入れを拡大し、技能要件を満たした労働者には長期在留を認めるなどの措置も講じています。

今回は、台湾の外国人受け入れの歴史を少し紐解いてみましょう。

9割以上が女性?- 台湾に流入する外国人『新移民』とは?

台湾と東南アジア諸国の間には正式な外交関係がないにもかかわらず、近年、東南アジア諸国からの移民が台湾社会において注目されるようになっています。

ひとつの特徴として、移民の9割以上が女性であり、彼女たちの移住目的は主に台湾人男性との結婚や台湾における介護・福祉の分野での労働です。彼女たちを含む新たな移民たちは「新住民(新移民)」と呼ばれています。2004年から2022年までの出生数統計によれば、この期間に東南アジア諸国出身の母親を持つ子どもの数は約149,182人で、台湾の全出生数の約4%を占めています。

台湾政府は、新住民およびその子どもたちの教育や文化的背景の尊重を推進する政策を取っています。例えば、新南向政策の一環として、対象国からの留学生が申請できる奨学金を準備するなど、幅広く受け入れに力を入れています。

また、新移民の子どもたちが出身国で一定期間過ごすことを奨励しており、これにより彼らは自らの文化的ルーツを深めることができ、台湾社会における文化的架け橋となることが期待されています。

このような新住民の受け入れ政策は、台湾が国際社会において自らの存在を強化し、中国との関係を補完するための一環として位置づけられています。台湾は国際社会において不安定な地位にあるため、新たな人的紐帯を築くことで国際的な支持を取り付ける狙いもあります。

外国人労働者の受け入れを拡大

先ほども述べた通り、台湾では労働力不足が深刻化しており、特に製造業や建設業、農業などで人手不足が報告されています。この問題に対処するため、台湾労働部は外国人労働者(非熟練労働者)の受け入れを拡大する新たな規定を導入しました。新しい規定は2023年6月17日から適用されており、製造業や建設業、農業などの業種で外国人労働者の雇用率の上限を引き上げるなどの措置が含まれています。

具体的には、製造業のうち水産加工業、豆腐製造業、金属船体業の3業種に対して、製造の自動化が難しく就労環境が厳しいことを考慮して、外国人労働者の雇用率の上限を旧規定の15%から20%に引き上げました。また、「すでに台湾内に居住している外国人労働者の雇用促進措置」を新たに設け、雇用主が「台湾内の“製造業3K外国人労働者”」を雇用する場合、業種別に設定された10~35%の上限雇用率に各5%分を追加できることとしています。

このように、台湾政府は外国人労働者の受け入れを通じて人手不足を解消し、経済成長を促進することを目指しています。しかし、台湾人の雇用に影響を与えない条件での受け入れが求められており、外国人労働者の採用前には、台湾人向けの求人活動を行う「労働市場テスト」を義務付けることなども盛り込まれています。

このような外国人労働者の受け入れは、少子化や高齢化による人手不足を直接的に解消する一方、様々な社会問題を引き起こす可能性もあります。事実、台湾でも日本の技能実習生に起きているのと同じ問題が発生しています。

構造は日本と同じ?- 台湾でも多い、職場からの失踪とその理由とは?

台湾では外国人労働者の転籍が認められていますが、好き勝手に職場を変えることはできません。日本の実習生制度と同様に、本人と就労先、そして新たな雇用主の合意が必要です。つまり、事実上、転籍は非常に難しいと言えるでしょう。

台湾も外国人労働者をめぐっては日本と同じ問題が発生しており、職場からの失踪が多く報告されています。2022年だけで4万1203人もの外国人労働者が職場から失踪しており、前年の2万660人から2倍に増加しています。特にベトナム人がそのうちの83%を占めていて、ベトナム人労働者の約7人に1人が失踪しているという深刻な状況です。

日本では、2022年に9,006人の実習生が失踪しており、度々ニュースにも取り上げられています。しかし、失踪者の数や割合を見ると、台湾の方がより深刻だと言えるでしょう。台湾での失踪者の多さは、同国の外国人労働者の就労環境が決して理想的ではないことを示しています。

台湾の外国人労働者が職場から失踪する理由の一つに、入国時に背負う借金があります。日本と同様に、台湾でも外国人労働者は母国の仲介業者への手数料を借金して支払うことが一般的だと言います。この借金は、働いて得た賃金を使って返済していくことになりますが、こうした人たちの台湾での賃金は決して高くないため、借金を返済するために手っ取り早く稼げるといわれる不法就労に走る人が現れるのです。

日本でも同様の問題が起きており、実習生の失踪が続いています。技能実習制度の見直しがされており、借金問題に対処するための改善策が求められています。台湾や日本を含む他の国々も、賃金が上昇し続ける中で外国人労働者を確保するために様々な施策を考えていますが、その中で重要なのは外国人労働者の賃金や労働条件の改善です。

ここまで、台湾の外国人労働者の受け入れと、起こっている問題について見てきました。台湾と言うと、半導体や電子機器など、ハイテク産業を思い浮かべる人も多いことでしょう。実は、そうした分野でも外国人労働者が多く働いており、いくつかの問題も指摘されています。最後にその問題について見てみましょう。

ハイテク分野でも低賃金?- 外国人労働者政策と課題

台湾のハイテク業界では、外国人労働者が多く活躍しています。彼らは「産業移工」と呼ばれ、最低賃金や労働基準法の適用を受けますが、多くは最低賃金水準での雇用です。特に製造業では、2021年時点の外国人労働者の給与(基本給と諸手当)は平均で2万4,610元で、最低賃金の2万4,000元とほぼ同水準です。

このような状況は、台湾人エンジニアなどにとって給与が高いハイテク業でも、外国人労働者にとっては他の製造業と変わらないという現実を示しています。その反面、産業が成長するにつれて人材不足が深刻化し、外国人労働者への依存度が高まっています。

同時に、外国人労働者の労働災害も問題となっており、特に製造業の事故が多発しています。労災発生後の手続きや保険金申請などで、外国人労働者は不利な立場に置かれることが多く、問題となっています。台湾政府は外国人労働者を長期的に確保するための制度改革を進めていますが、その効果は限定的かもしれません。外国人労働者の安全と福祉を考える上で、さらなる対策が求められています。

グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。

タイトルとURLをコピーしました