日本礼賛-本当にみんな日本が好きなのか?

  • 2022-3-7

「日本大好き!!行ってみたい!!」「日本人はみんな良い人!!」「食事がおいしい。文化も素晴らしい!!」。外国の街中や日本の空港で外国人にインタビューして、このような反応を引き出すテレビ番組が増えたと思いませんか?

ある分析によると、こうした番組は10年程前から増え始めたようです。この分析の紹介は記事の中盤で行いたいと思いますが、ひねくれ者の筆者はどうしても『本当にそう思ってる?本当にそれほど日本が好きなの?』と穿った見方をしてしまいます。

本当に皆、日本のことがそれほど好きなのでしょうか?本当に皆、日本に行きたいと思っているのでしょうか?今回はこのような『日本礼賛』番組が増えた理由と、日本の魅力を正しく伝える方法について考察しましょう。

日本礼賛番組とは何か – あなたはどう受け止めますか?

日本礼賛番組とは、日本に強い関心や憧れを持つ外国人の視点を通して、日本の魅力や凄さを伝えようとするテレビ番組のことです。

では具体的に、日本礼賛番組とはどんな番組でしょうか?二つ実例を考えましょう。

日本礼賛番組の例

1.テレビ朝日『ニッポン視察団』

日本に来日した外国人たち「視察団」に、番組独自のさまざまなテーマで徹底取材!
彼らが思わず「スゴい!」と言ってしまった“母国と大きく異なる、日本のスゴさを感じること”を分かりやすく紹介していきます。外国人の視点だからこそ、さらに浮き彫りになる日本のスゴさ、そして海外との違い――。日本人でも知らなかった“日本の素晴らしさと独自性”を新発見でき、もっと日本が好きになれるバラエティです!

―ニッポン視察団ウェブサイトより抜粋

この番組では、海外の専門家が日本に招かれ、テーマに関するスポットを視察して海外と比較しつつ日本の凄さを学ぶ形をとるため、「海外のプロも日本のものを凄いと称賛しているんだ」という感動を視聴者に与えるかもしれません。

2.テレビ東京『世界!ニッポン行きたい人応援団』

この『世界!ニッポン行きたい人応援団』は、「ニッポンが大好きで、ニッポンに行きたくてたまらない」外国人の皆さんの“思い”そして“夢のニッポン体験”を応援する番組です。

―世界!ニッポン行きたい人応援団ウェブサイトより抜粋

この番組では、出演外国人に日本に対する思いを語ってもらうところから始まり、日本で受けたおもてなしや日本人との交流に焦点を当てるシーンもあります。

この二例以外にも、「Youは何しに日本へ?」や「所さんのニッポンの出番」などの番組名を思い浮かべる人も多いでしょう。

冒頭で述べた通り、こうした番組は10年程前から増え始めました。続く部分では、日本礼賛番組が増えた理由を考察していきましょう。

日本礼賛番組が増えた理由を考察―社会部部長YouTubeチャンネルより

『社会部部長』というYouTubeチャンネルをご存知でしょうか?チャンネル登録者数は17万人ほど(2022年2月現在)で、ジャンルとしては「歴史考察系」のチャンネルに分類できます。

2021年4月に、このチャンネルで「日本礼賛番組はなぜ増えたのか?」という動画が公開されました。10年程前から日本礼賛番組が増え始めた状況とその理由を、いくつかのデータや資料を用いて考察する動画です。用いられているデータや資料には全て出典がありますので、この記事でもその出典を挙げて記述していきます。

日本礼賛番組は10年程前から増え始めた

この動画の冒頭では、2006年スタートのNHK『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン』から2017年スタートのテレビ東京『ニッポンの技で世界を修理 世界!職人ワゴン』まで、12本の日本礼賛番組が例として紹介されています。この12番組のスタート時期と制作局を見てみると、以下のようになります。

・2006年 NHK『COOL JAPAN~発掘!かっこいいニッポン』
・2008年 テレビ東京『和風総本家』
・2009年 テレビ東京『たけしのニッポンのミカタ!』
・2012年 テレビ東京『世界なぜそこに?日本人~知られざる波乱万丈伝~』
・2013年 テレビ東京『Youは何しに日本へ?』
・2013年 TBS『世界の日本人妻は見た!』
・2013年 TBS『ぶっこみジャパニーズ』
・2014年 テレビ朝日『世界が驚いたニッポン!スゴ~イデスネ!!視察団』
・2014年 TBS『ところさんのニッポンの出番』
・2015年 TBS『メイドインジャパン!』
・2016年 テレビ東京『世界!ニッポン行きたい人応援団』
・2017年 テレビ東京『ニッポンの技で世界を修理 世界!職人ワゴン』

2012年頃を境にこうした番組が増え、そしてテレビ東京がこうした番組を積極的に制作していることが見て取れます。

それでは、なぜこうした番組が2012年頃から、しかもテレビ東京を中心として制作され始めたのでしょうか?『社会部部長』は、①各局の番組制作費の減少と②世論に反映された日本人の自信をその理由として挙げています。それでは、この二つの理由を出典参照データから見ていきましょう。

各局の番組制作費が減少した

最初に挙げられた理由は、民放各局の番組制作費の減少です。番組制作費の減少は、2008年のリーマンショック後の各局広告収入の減少に影響されて起こりました。また、元々制作費が他局の半分ほどしかなかったテレビ東京は、更に制作費を減らさなければいけない状況になりました。

こうした状況を背景として、テレビ東京が少ない制作費で高い視聴率を期待できる日本礼賛番組を制作し、その成功を見た各局が追随して日本礼賛番組を作成してきたと『社会部部長』は分析しています。

※動画の中で挙げられているデータの出典は以下の通りです。
・遠坂夏樹 (2015) 「テレビ広告の価値はバブル状態!?転換期を迎えたビジネスモデルを考える」―宣伝会議
・longlow’s diary (2017)「2016年度(2017年3月期)の在京民放キー局の決算資料から見る番組制作費

日本人の自国に対する自信が上がった

続いて動画の中で紹介されているのは、NHKの日本礼賛番組の推移、日本礼賛的な題名の本(日本礼賛本)の出版数、日本礼賛記事数、そして日本人の意識の変化です。これら四つの要因についてそれぞれ見ていきましょう。

最初の要因はNHKの日本礼賛番組数です。日本礼賛番組は、NHKにおいても2002年までほとんど見られませんでした。しかし2003年から増え始め、これが民放各局の日本礼賛番組の制作に影響したとも考えられます。

次の要因は日本礼賛本の出版数です。こちらも2010年代に急増しており、テレビ番組と呼応する形で増えていったことが推察されます。

続く要因は新聞の日本礼賛記事数です。動画の中では、朝日新聞の記事の中から「世界一」という文言が付けられた日本に関する記事の数をグラフ化したものが紹介されています。第二次大戦直前の1937年あたり、バブル経済真只中の1980年代後半、そして2006年以降の三つの時期に、日本礼賛記事が増えていることがグラフを用いて紹介されています。

これは最後の要因、日本人の意識の変化にも関係します。動画の続く部分では、NHKが行った日本人の意識調査が紹介されています。その中で、「日本人は他の国民に比べて極めて優れた素質を持っている」という選択肢を選んだ人の割合と、「日本は一流国だ」という選択肢を選んだ人の割合が、それぞれ2008年から2013年にかけて急増しており(57%→68%、39%→54%)、その割合が最も高かった1983年(71%、57%)に迫る勢いです。

もう一つ気になる数字があります。同じ調査で『「今でも日本は外国から見習うべき事が多い」と思わない』という選択肢を選んだ人の割合が、1998年の13%を底値として、2013年には18%まで微増していることです。

2008年から2013年は、リーマンショック、政権交代、東日本大震災など、生活や経済を左右する様々な出来事が起きた時期です。東日本大震災の混乱の中にあっても暴動や略奪がほとんど発生せず、被災者が炊き出しに整列する様子が好意的に報道されるなど、日本人が自分たちの精神性を見つめなおそうとした時期だったとも言えるかもしれません。

※動画の中で挙げられているデータの出典は以下の通りです。
・窪田順生 (2017)「『愛国』という名の亡国論」さくら舎
・NHK放送文化研究所 (2019) 「45年で日本人はどう変わったか(2)」

日本を客観的に見ることの大切さ

ここまで、『社会部部長』というチャンネルのYouTube動画を通して、日本礼賛番組が増えた理由と日本人の意識の変化について考えることができました。テレビ番組、本や記事だけでなく、YouTube動画や個々人のTweetなども、こうした変化を映し出していると感じるかもしれません。

皆さんはこうした風潮をどのように感じられるでしょうか?

確かに、自国に愛着や自信を持ち、その魅力を外国人に知ってほしいと思うことは、人として当然のことです。しかし、「自分たちは他の国や人々よりも優れている」「他の国から学ぶことは何もない」と盲目的に自国を礼賛してしまうなら、本来持っているはずの魅力すら正しく伝えることはできなくなるでしょう。

先ほど考察した日本礼賛記事数のグラフにあったように、1937年頃に日本礼賛世論が形成され、その数年後に日本がどのような経験をしたかを私たちは知っています。コロナ下での東京オリンピックが終了し、国際的な人流が戻りつつある今、私たちは日本の魅力を外国人にどのように知ってもらうべきかを、もう一度考え直す時期に来ているのかもしれません。

※筆者、及び株式会社Sociariseは、YouTubeチャンネル『社会部部長』とは関係がありません。外国人の視点で日本を見る上で非常に有益な資料として、当チャンネルの動画「日本礼賛番組はなぜ増えたのか?」を紹介しました。この動画はYouTubeで視聴できます。

グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。

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