なぜ「グエン」さんがベトナム人に多いのか

就活中のベトナム人留学生と出会うと、「グエン(阮)」という姓を持つ方の多さにびっくりします。時には姓以外の名前の部分まで同じ方が居て、はてどちらのグエンさんでしたっけ?という事態になることも珍しくありません。

彼ら自身がどうやって同じグエン姓同士で区別しているのか、先日のテレビの特集では「~山のふもとに住むグエンさん」「~川の近くに住むグエンさん」などと紹介されていました。

今回はこのベトナム人における「グエン」姓の多さの謎に迫ります。

姓の分布

ベトナムの人口の約40%を占めると言われる姓「グエン」。現在ベトナムの人口は約9700万人なので、約3900万人が「グエン」さんということになります。なんと世界でも4番目に多い姓なんだとか。

ちなみに世界の苗字ランキングは

1位…Lee、Li(韓国、中国両国内第2位)
2位…Zhang
3位…Wang(中国国内第1位)
4位…Nguyen
5位…Garcia
6位…Gonzalez
7位…Hernandez
8位…Smith(アメリカ、イギリス両国内第1位)
9位…Smirnov
10位…Muller、Miller(ドイツ国内第1位)

となっております。(出典:『THE WORLD GEOGRAPHY』)

少数民族を含めて800近くの姓があると言われるベトナム。主要民族であるキン族に関しては、姓のほとんどが漢字名に由来していますが、その数は160余りしかなく、日本人と比べると姓の数ははるかに少ないです。

北部と南部では姓の分布状況が多少異なっていますが、それでも上位15位のうちほとんどは重複している様子です。

Nguyen(阮)、Tran(陳)、Huynh/Hoang(黄)、Pham(范)、Vu/Vo(武)、Phan(潘)、Bui(裴)、Ngo(呉)、Do(社)、Dang(鄧)、Ho(胡)、Duong(楊)

最も多い姓はやはりNguyen(グエン)ですが、北部では48%の占有率なのに対して南部では28%程度だそうです。

もともと北部は文化発祥の地とされ、かつては多くの諸侯・王朝が集まった場所とされています。対してベトナム最大の都市ホーチミン市を中心とする南部は、他の地域と比べ外国との取引も盛んで、人の流通も多かったため、北部より多様な姓があふれているのだと推測されます。

また北部と南部で元の漢字が同じでも異なる発音の姓もあります。「黄」がホアン(Hoang)とフイン(Huynh)、「武」がヴー(Vu)とヴォー(Vo)、「周」あるいは「朱」がチュー(Chu)とチャウ(Chau)といった具合です。

ちなみに日本で最も多い三大苗字は「佐藤」「鈴木」「高橋」ですが、3つ併せても日本の人口の4%に過ぎません。それに比べてベトナムでは「グエン」だけで40%、上位3つを併せれば60%となります。そのためベトナム国内においては「グエンさん!」「チャンさん!」とお互いに苗字で声をかけることはほとんどなく、親しくない間柄でも下の名で呼び合うのが通例なんだとか。

名前の構成

主要民族キン族の名前の多くが3音節からなり

【姓】+【ミドルネーム(テンデム)】+【名】

という構成になっています。

1945年以前にはグエン・ズー(Nguyen Du)のようにミドルネームのない2音節の名前も一定数存在していたのですが、現代では3音節の名前がほとんどだそうです。

ちなみにミドルネームにあたるベトナム語は「テンデム(ten dem)」と呼ばれ、「クッションの名前」という意味となります。

このテンデムの機能の一つに性別の区別があります。

例えばグエン・ティ・ビン(Nguyen Thi Binh)のようにテンデムが「ティ(氏)」であれば、これは女性の名前だと分かります。対して男性の代表的なテンデムには「ヴァン(文)」があります。

もっとも「ホン(紅)」「スアン(春)」「ゴック(玉)」など性別を問わず用いられるテンデムも存在することから、全てのテンデムが性別を区別する機能を持っているわけではないようです。

漢字名と非漢字名

キン族の名のほとんどが漢字をベトナム語読みしたものです。男性であれば「フン(雄)」「ズン(勇)」、女性であれば「ラン(蘭)」「フオン(香)」などが挙げられます。

しかし、漢字に由来しない名もあります。チャン・ヴァン・ザウの「ザウ」がそれです。1945年と1954年に行われた戸籍書類の作り替えに際して多くの人が漢字に改名した際に、農村部に住む一部の人々は非漢字の名のまま暮らしていたことの名残だと思われます。

4音節以上の名前

近年、キン族の名前は4音節以上に長くなる傾向があります。それはテンデムが2音節になる場合と、名が2音節以上になる場合です。

前者では、父母のテンデムや名をとる場合が挙げられます。例えば父の名前がカオ・スアン・フイ(Cao Xuan Huy)で娘がカオ・ティ・スアン・ラン(Cao Thi Xan Lan)といった場合です。

後者では、グエン・ヌー・フオン・ザン(Nguyen Nu Huong Giang)のように女性のテンデムに「ティ」を使わずに「ヌー(女)」を使い、名を2音節以上にする場合も増えてきました。

また、例外として姓の影響でテンデムが2音節になる場合が存在します。それは本人が王族や貴族の血を引くような出自で、姓の後にもう1語付け足すことで同じ「グエン」でも、どの血族の「グエン」か見分ける場合です。姓が2語になるという訳ではなく、例えば「グエンフー」なら「グエン」が姓、「フ―」がテンデムになるといった具合です。

結婚したら姓は変わる?

現在、日本では結婚したときに夫婦が同じ姓を名乗りますが、ベトナムでは女性が結婚しても姓は変わりません。

子供は父親の姓を名乗るのが一般的ですが、母親の姓を受け継ぐこともあります。例えば、母親の兄弟が女性ばかりで家系を受け継ぐものが誰もいない場合、複数産まれた子供の誰かを母親の姓にするというケースがあるようです。

姓の由来

さて、本題である「グエン(阮)」という姓の由来について。

これはベトナム史最後の王朝であるグエン朝(阮朝)に由来しているといわれています。939年から1945年の約1000年に渡り、ベトナムは王朝が国を治めていました。当時の人々はこの王朝の名前から自分の姓を付けたそうです。

しかし、王朝時代には政権交代が繰り返され、様々な王朝が誕生しました。そのため人々はそのたびに、姓を反体制の前王朝のものではなく新しい王朝のものから取るようになったそうです。

最初の王朝は呉。英雄ゴー・クェン(呉権)は中華王朝の支配下にあったベトナムを解放、彼の部下ディン・ボ・リンとともにベトナムを統一し、国名をダイコベトと名付けました。

その後に丁朝、前黎朝、李朝、陳朝、胡朝と続いていきます。先述の姓についての分布と比較すると、確かに各時代の王朝の名前と合致していますね。

ちなみに陳朝時代に攻めてきたのは元でした。鎌倉時代の「元寇」を思い出しますね。元は海を隔てた日本を攻める前に地続きのベトナムを攻めていたのでした。元はベトナムを3度来襲しましたが、1度目は暑さにやられ、2度目は暴風に吹かれて退却したそうです。なんと「神風」は日本だけでなくベトナムにも吹いていたのでした。

しかし3度目の来襲の際には、元50万の軍勢に気おされ、当時の王は降伏も考えていたとのこと。弱気な王を奮い立たせたのはチャン・フン・ダオ将軍。元の兵船400隻を川底に打っておいた500本の杭に引っ掛けたところを撃滅。勝利に導いたのでした。

阮朝の始まりは1802年。国名がベトナム(越南)となったのも、初代皇帝グエン・フク・アン(阮福映)によるものです。この年から1945年までの150年近い間が阮朝時代。つまり阮こそが、最後の王朝だったのですね。

まとめ

ベトナムに「グエン」さんが多い理由。

それは民衆の姓がその時代の王朝の名前によって変わっていったこと、そして最後の王朝の名前がグエン(阮)であったことだったんですね。

約150年という長きに渡り存在していたベトナム版のラストエンペラーとも呼ぶべき存在。

人々はその存在を畏怖・尊敬・憧憬、様々な思いを抱きながら自分の姓にしていったことでしょう。

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