主語が大きすぎない?『親日』という幻想

「〇〇って親日国?」という質問を耳にしたことがありますか?あるいは、「〇〇は親日国だから、日本車のシェアが80%を超えているんだよ」という分析をする人もいます。

しかし、親日(シンニチ)、つまり日本に親しみを持っているということを、何千万、場合によっては何億もの人口を擁する国を主語にして語ることに違和感を覚えるのは筆者だけではないでしょう。

今回は、「親日」という言葉の使われ方を分析しながら、日本に対する客観的な視点を培う方法を考えましょう。

日本は“親米”国か?

親日と同じく、親米(シンベイ)という言葉もよく聞かれます。言葉の通り、アメリカに親しみを持っているという意味です。

では、日本は親米国家でしょうか?

政治的、文化的には“親米”国家。では感情的には?

確かに、70数年の戦後日本政治はアメリカとの強力な同盟関係を基盤として運営されてきました。まさしく、戦後から現在まで続く自民党政権は“親米政権”と言えるでしょう。また冷戦期にあっては、日本は一貫して西側、米ソという二大国の米側に立場を置いてきました。

更に、敗戦後から現在に至るまで、日本はアメリカ文化を従順に受け入れた巨大市場であり続けているとも言えるでしょう。ハリウッド映画、マクドナルド、iPhone、等々。私たちの周囲にはfrom USAが溢れています。逆に、野球のメジャーリーグ、バスケットボールのNBAなど、日本からアメリカの舞台にキャリアアップするアスリートも多くいます。

しかしそれと同時に、「親米」と一括りにできるほど単純ではない感情が日本人にはあるでしょう。一昔前日本はアメリカと戦争し、敗戦の上空襲や原爆の投下を経験したからです。更に、アジア人や有色人種として、アメリカを含む白人国家から受けた差別を思い出す人もいるかもしれません。

日米安保闘争時代の国民感情は?

時事通信社の世論調査「好きな国/嫌いな国」というものがあります。1960年6月から続く調査で、全国の成人男女2,000人に、米国、ソ連(後にロシアに変更)、英国、仏国、西独(後にドイツに変更)、スイス、インド、中国、韓国の9カ国について好嫌を調査しています(現在は北朝鮮も含めて10ヶ国)。第一回調査が行われた1960年6月は、日米安保に反対する安保闘争真最中でした。では、この時代の日本人はアメリカが嫌いだったのでしょうか?

この第一回調査で「好きな国」としてアメリカを挙げた人は47.4%。対象9カ国の中で最高値でした。一方「嫌いな国」としてアメリカを挙げた人は5.9%でした。日米安保闘争の真只中において50%近い人がアメリカを「好きな国」として挙げており、「嫌いな国」とみなす人は極めて少なかったようです。

高齢の戦争経験者、若い人、アメリカに行ったことがある人ない人、アメリカのカルチャーが好きな人嫌いな人、様々な思いを持つ1億2千5百万人の日本を、一言で“親米”“反米”と表すことはやはり難しいでしょう。それを理解していながらも、とかく他国のことになると“親日”とか“反米”とか、一言で括ろうとしてしまうのも事実です。

同じことは、何かと衝突の多い隣国に関しても言うことができます。

日本は“嫌韓”国か?

“親米”とは逆の使われ方をする言葉で、最近よく聞くのが“嫌韓”です。日本と韓国の政治的摩擦を背景として、「韓国が嫌い」つまり“嫌韓”という言葉が使われ始めました。

では、日本は“嫌韓国”でしょうか?

世代によって分かれる対韓感情

竹島問題や慰安婦問題など、日韓の間で論争を呼ぶ問題はたくさんあります。そうした問題が政治的カードとして表に出されると、必ず国民感情は悪化します。

しかし韓国に対する日本人の好嫌感情には世代間で大きな開きがあるのも事実です。日本が半導体3品目の輸出管理強化を実施し韓国が猛反発した2019年の対韓感情調査では、「韓国に親近感を持つ」と答えた人は、60歳~69歳では31.3%と低く、一方18歳~29歳では57.4%でした。実に二倍ほどの開きがあります。

実際若い世代では、韓流アイドルやファッションに興味を持つ人が多く、しかしサッカーの国際試合での小競り合いなど反感を持つ人も一定数いるのが現状です。そして年配世代では、継続的な政治的対立から韓国を信頼しない人が多く、また「もともとは日本が発展を支援したんだ」という意見を持つ人も多くいます。

距離的に近く交流も多いほど、様々な感情が入り混じっている様子が見て取れます。こちらも、一言で日本が“嫌韓”“親韓”と断じることはできないでしょう。

では、今や日本にとって最大の貿易相手国となった中国についてはどうでしょうか?

日本の対外貿易額上位を占めるのは“親日”国?

輸出入総額(年ベース)で見る貿易相手国のランキングを見てみると、2006年までは日本の最大の貿易相手国はアメリカでした。しかし、2007年以降現在に至るまで、日本の最大の貿易相手国は中国です。更に、2020年の10位までのランキングを見てみると、2位アメリカ、3位韓国、4位台湾、5位タイ、6位オーストラリア、7位ベトナム、8位ドイツ、9位香港、10位マレーシアです。

では、貿易総額が大きい、つまり日本と経済的結びつきが強い国は“親日”国なのでしょうか?確かに、台湾やタイはしばしば“親日”として語られます。台北やバンコクは日本人駐在者が多く、日本人に人気の旅行先でもあります。一方、更に経済的結びつきの強い1位中国と3位韓国を“親日”国という人は殆どいないでしょう。

政冷経熱という言葉もある通り、国と国の親密さは、政治・経済・文化・国民感情などいろいろな要素があり、一言で語れるものでは到底ありません。同じことは、日本に来ている様々なバックグラウンドを持つ人たちについても言うことができます。

日本に来ているから「日本が好き」とは言い切れない

「日本に住んでいるのだから、日本が好きに決まっているだろう」と思われるかもしれません。確かに、日本が最初から大嫌いであれば、わざわざ来日して住んだりはしないでしょう。

しかし、日本で生活し日本で働いている人にも、様々な対日観があることを知っておく必要があります。

たまたま行き先が日本だった人たち

「日本が好きで、日本に留学しました」「日本にずっと住みたくて、日本で仕事をしています」という人は、もちろん多くいます。一方、たまたま行き先が日本になったという人もいます。

ある留学生は、「本当はアメリカに留学するはずだった。しかし、日本留学の奨学生に選抜されたので日本にした」と言いました。別の学生は、「日本で学びたいというより、自分が師事したい教授が日本の大学院で教えていた」と言いました。

また、技能実習生の中には、そもそも行先国を選べる立場になかったという人も多くいるでしょう。

これは駐在員も同じで、会社の指示で日本に来たという人が多くいます。逆の立場で考えると、日本人商社マンに外国駐在辞令が出て、喜んで行く人と渋々行く人がいるのと同じだと言えますね。

日本に来てから、日本が好きではなくなった人

たとえその国に行きたいと長年希望していたとしても、いざ外国で生活するといろいろなストレスを感じるものです。じろじろ見られているように感じる、自分が受け入れられていないと感じる、言葉の壁があり人間関係がうまく作れない、等々。

そんな時に、「日本が好きなんでしょ?」「日本のどんなとこが好き?」「君の母国よりずっと良いでしょ?」と言われると反論したくなるものです。これは、外国に住んだことが有る人なら皆経験しているかもしれません。

あるいは、留学生がしばしば経験することですが、母国で知らされていた日本での素敵な学生生活と、実際に留学して詰め込まれた汚い教室や学生寮のギャップに苦しむ場合もあります。先生とのそりが合わなかったり、ホームシックになったときに学校がケアしなかったりしたことが原因で、「もう日本はいいや・・」と思ってしまう若者も多くいます。好きなだけ滞在して好きな時に帰れる旅行者とは、全く違う状態であることは確かです。

いずれにせよ私たちは、日本にいる外国人が皆“親日”状態であるという幻想は捨てなければなりません。人の好き嫌いはちょっとしたことで変わりますし、幻想が打ち砕かれた結果、アンチになるのも珍しいことではありません。

たとえ彼らが日本を選んで来ているとしても、日本への親愛や忠誠を押し付けることはできないですし、そうしようとする精神は多文化共生を阻害するでしょう。

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