2021年採用・就職活動の実態、そして今必要な就職支援とは?
6月に入り、少しずつ企業の採用活動も動きが戻り始めてきました。一方で、2021年新卒の採用活動が長期化することは明らかです。実際、弊社もお客様とお話をしていると、採用活動再開の目処がまだ立っていないという企業様が多くみられます。中には、求人自体を止めたところもあります。
しかし、悲観するばかりでは前に進めません。全体的な傾向としては長期化しますが、細かく見ていくとその内実は決して一様ではありません。例えば弊社が営業をしているお客様を業種別にわけると、以下のような特徴が見られます。
製造:現状、採用活動の変更はなし。ただし、今後減産が生じるようであれば影響が出る可能性も。
IT:普段採ることの出来ない人材も労働市場に出てきているため、積極的に採用活動を実施。
上記は全体調査に基づく結果ではないので、日本全国の様相を表してはいませんが、全体で見れば困難さを増している就職活動も、業界や企業の採用状況をしっかり掴んでおけば、卒業までの就職も実現できることが分かります。今年度は例年以上の情報戦になるでしょう。
留学生の就職活動が難航する2つの理由
日々、留学生の就職相談にのっていると、以下2つの悩み事をよく耳にします。
- 会社の情報収集
- ウェブでの面接
会社の情報収集
毎年多くの留学生に相談を受けるのですが、今年は特に多くなっています。外出が制限された結果、合同説明会やセミナーなど就職活動の入り口ともいえる各イベントが、今年はほとんど中止になってしまったことが理由として挙げられるでしょう。
貴重な企業との接点を失い、卒業年度の5月時点でスタートすらできていない留学生も少なからずいました。「とりあえず行けば情報が手に入る」ということができなくなったため、自分の興味ある業界・会社の情報はとりのがさぬよう、自らこまめにチェックしなければなりません。
ウェブでの面接
過去にあまり例のない事態で、企業側も試行錯誤が続いているようです。音声が聞こえない、画面が映らない、送ってもらったURLが開けない、突然回線が切れてしまった、声が小さくて聞き取りづらいなど、スムーズに面接ができない状況をよく耳にします。
また、面接者の本音として「正直、ウェブだと人柄が分かりづらい」という声も珍しくありません。職歴やスキルセットを文書で伝えられる中途人材と違い、新卒は意欲や人柄が採用可否に大きく影響するので、ウェブ面接は余計不利に働きます。
加えて、留学生であることが不利に働いてしまうケースも残念ながらあるようです。例えばタイムラグが生じたときや質問を聞き返したとき、対日本人学生であれば「通信環境が悪くて聞こえにくいのかな」と思うところ「日本語力が足りないな」と判断されてしまうことも実際あります。このような事態を避けるために「わからないときには聞き返して、きちんと理解した上で答えること」を対面での面接以上に徹底する必要があります。
会社情報の収集にしろ、面接での説明にしろ、例年以上に「主体性」が求められていることは間違いありません。
◯◯をした留学生が続々内定獲得!?
このような逆境の中、ある属性の留学生たちは早々に内々定をもらっています。それは、『昨年インターンシップに参加していた留学生』です。その理由は、彼らはインターンシップをしたことにより、前述の2つのポイントで躓かずに済んでいるからです。
インターンシップを通じて実際に働いている人とコミュニケーションをとることは、何よりも有力な情報収集の手段です。実際、会社のHPを隅から隅までチェックし頭に入れても、それで完璧に企業のことを理解したと言うことは出来ないでしょう。入念な下調べを前提に「会って、見て、感じること」を経てしか、企業理解はできません。
コロナウイルスの影響で企業の人と会う機会が極端に制限された中でも、それ以前に社会人との接点をもっていた学生たちが一歩前へ出ています。企業理解が他の人より進んでいるということでエントリーシートは見当違いの妄想文にならず、面接で話せることも圧倒的に増えます。
また、インターンシップに参加した学生の場合、面接は、既に面識ある人とのウェブ会議になります。本来、初めて会う人にまずは自分の概要を知ってもらって、その上で良さを分かってもらう、という2ステップあるところ、後者の1ステップで済みます。初めて会う人に対しても、インターンシップを通じて得た社会人とのコミュニケーション訓練が活きて、うまく自分自身を知ってもらうことができます。
毎年、インターンシップを経験した留学生は、内々定を通常よりも早く受けることが多く見られますが、今年は特に顕著に表れています。来年も就職活動が厳しくなるのは容易に想像できるので、夏以降インターンシップへの参加を促すと良いかと思われます。
今年の就活成功の鍵は?
今後採用活動がどのようなスケジュールで、どの程度回復するのかは、現時点ではまだ検討もつきません。人材採用の前提となる事業の将来が、まだ正確に見通せないからです。商品やサービスの消費が見込めない限り、企業は人材投資もあまりしないので、留学生にとっては苦難の時期がしばらく続くと予想されます。従って、今年は例年以上に就職活動への意識を高め、行動を早くとる必要があります。
具体的には、就職活動の情報を”個人の資産”に留めず、クラスや学校全体で共有し、チームとして就職活動に取り組むことです。多くの場合、それは学校のキャリアセンターが担うことになるでしょう。クラス単位で就職のためのLINEグループを作ったり、合格者が出た企業にアプローチをかけて面接を設定したりなど、学校ごとに良い事例が見られます。徹底しているところになると、一人一人の学生の就職情報をデータベースに細かく記録し、月次で未内定者数を算出して、卒業までに0にする動きをとっています。
いずれの活動にしても、就職活動の情報を広く共有する。そして、キャリアセンターが媒介することが有効です。個人の努力ではどうにも太刀打ちできない状況の中、学校全体のチームプレーで立ち向かっていくことが卒業時の命運を分けそうです。
留学生専任キャリアアドバイザー。専門学校や日本語学校にてキャリア講義、就活特別講座を行うなど講師としても活動中。演劇的手法を用いた独自の体験型プログラムの構築や「使える日本語」をキーワードとしたオンライン会話練習プログラムの運営を行う。相手の状況と心境にとことん寄り添うコミュニケーションときめ細やかなフォローアップを心がけており、留学生によく「井上さんは一生懸命ですね」と褒められる。