グローバルモビリティという言葉を耳にすることが最近増えているのではないでしょうか。一言で言うと、グローバルモビリティ(global-mobility)とは国際間人事異動のことです。
ビジネスのグローバル化が進む中、多くの企業がグローバル人材の確保に苦戦しています。そこで、グローバルに活躍できる人材の確保・育成のため、戦略的な人材マネジメントとしての国際間異動、つまりグローバルモビリティに注目が高まっています。
前回の記事では、グローバル人材の7つの資質についてお話ししました。今回は、人材を育成し活用するための、人事マネジメントシステムとしてのグローバルモビリティをご紹介します。
グローバルモビリティとは|戦略的に育成・活用するグローバル人材マネジメント
国際的なビジネスを展開する企業にとって、様々な背景をもつ人材を雇い、国境を超えた人材配置をすることはとても大切です。
グローバルモビリティは、国籍を分け隔てることなくポテンシャルのある人材を確保・育成し、国境を超えた適所に配置する人材マネジメントです。
グローバルに生産性を向上させ、ビジネスの成長を促進し、企業全体を発展させることを目的として行われます。
それでは、グローバルモビリティを有効活用するために、どのようなことが必要になってくるでしょうか?
グローバルモビリティを有効活用するために必要なこと
人材マネジメントにおいて、グローバルモビリティを有効活用するためには、本社からの赴任を前提とした制度だけでは十分ではありません。むしろ、海外現地法人から本社への登用や、海外現地法人間における異動も視野に入れた制度設計が必要となります。
そして、スムーズに国際間人材移動を行うために、管理組織体制の構築が不可欠です。更に、グローバルな人事異動のためにはビザ、就労許可書の取得や税務申告など、様々な業務プロセスの構築も必要となります。
それでは、グローバルモビリティのメリットと問題点について見ていきましょう。
グローバルモビリティのメリット
グローバル人材の確保と育成
グローバルモビリティにより、世界規模で人材を確保し、育成することができます。国境や国籍にとらわれずに人事異動や配置を行うことで、海外の人材の育成に力を注ぐことができます。
更に、グローバルモビリティを導入することで、人材育成のために海外へ優秀な社員を異動させるだけでなく、海外の優秀なスタッフを日本でまたは地域で研修させたりすることができます。つまり、国境を越えた人材確保そして育成が可能になるのです。
企業の発展への貢献
グローバル化を進める企業において重要なことは、高い能力を持つ優秀な人材を確保・育成し、戦略上重要な職務に配置することです。
そこで、グローバルモビリティを活用するなら、優秀な人材に重要な職務を任せることでキャリア形成ができます。また、キャリアパスを見える化することで優秀な人材の流出を防ぐこともできます。それにより、将来にわたって企業がグローバルに発展することを期待できます。
グローバルモビリティの問題点
業務手続きのトラブル
各国の入出国関連法規の厳格化や税務・法務コンプライアンスの強化に伴い、業務対応が複雑化しています。そのため、クロスボーダーのスムーズな移動のためには、最新の情報を入手し計画することが必要です。
業務の諸問題を引き起こさないために、グローバルモビリティ担当を設置してリスク回避する必要があります。この担当者は、グローバルモビリティの処遇・設計などの業務企画、給与計算や税金関係、評価基準、許可業務など人事関連にも対応する必要があります。
業務支援をスペシャリストのいる専門の会社に依頼することも可能ですが、同時に会社に専門担当チームを整備していくことが大切です。
グローバルモビリティのシステムの構築
更に、グローバルモビリティを最大限活用するためにはシステムを構築する必要があります。ここで必要なシステムは以下の5つです。
- グローバルモビリティ戦略構築
- グローバルモビリティポリシー策定
- 多方向の国際間異動:日本から海外、海外から日本、海外から海外に適用できる処遇を含むポリシーの策定
- 赴任者人材の要件定義
- 赴任者のキャリアパスの設計
- グローバル人材の人事評価などの人事システムの構築
- 管理組織体制の構築: 多方向の国際間異動を管理するための専門チーム
- グローバル人事業務プロセスの設計と運営
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グローバルモビリティまとめ
国境を超えた人員配置戦略のグローバルモビリティは、ビジネスのグローバル化が加速する中、注目を集めている人員戦略です。
しかし、この戦力を活用している日本企業においても、ローカルマネジメント人員を見る限りは、海外派遣型としてのみ活用されています。つまり、グローバルモビリティの本来の形ではまだ活用されていないのが現状です。これは日本企業のグローバル人材要件に、日本人としてのアイデンティティーが求められるため、海外で採用した人材を活用しきれていないという理由が考えられます。
しかし、グローバルモビリティ戦略をうまく使うことで、知日人材を含めより多様で優秀な人材を確保・育成できます。それゆえ、グローバルモビリティはグローバル人材確保の戦略として更に注目されていくと思われます。
20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。