AIを活用する次世代リーダープログラム&グローバルモビリティを適用する企業:ユニリーバ

  • 2022-1-29

優秀な人材を確保するために、世界中の様々な国で、グローバルレベルで人材を集める政策が採られています。

例えば、多文化主義国家で知られるオーストラリアは、出生率の低下による人口減少とそれに伴う国力の低下への対策として、技能移民政策を90年代から取り入れています。その結果、技能移民が移民全体に占める割合は約3分の2に拡大し、1995年に1,800万人であった人口が2018年には2,500万人へと増加しています。オーストラリアでは、1990年代以降の人口増加の実に63.2%が移民によるものです。

優秀な人材確保の政策については各国で考えられており、イギリスでは、EUを離脱する際に低賃金労働者を排除し、高学歴、高収入の高度人材を受け入れる新移民政策を発表しました。その一環として、Global Talent Visaという分類を強化しています。また、英国の大学を卒業した外国人学生に対し、英国に滞在して仕事を探し、仕事に就く機会を与えるための、Graduate Visaが2021年夏に導入されました。

日本でも、少子高齢化に伴う人材不足への対処政策として、人材の確保、育成政策が打ち出されている中、2019年には特定技能の在留資格が導入されています。

このように、国レベルでの取り組みは様々に始まっていますが、企業レベルで見ると、優秀な人材の確保に苦戦している会社が多いのではないでしょうか?国レベルの取り組みを活かし、企業が優秀な人材を集めるための、グローバル人材の雇用、育成、活用の政策をみていきましょう。

近年世界中の企業で活用されている、グローバルに活躍できる人材の確保・育成のための次世代リーダー育成プログラム(Future Leaders Program)があります。今回は、次世代リーダー育成プログラム(Future Leaders Program)に加え、国境を超えた人材配置戦略のグローバル・モビリティ・プログラムに、最新のAI技術を駆使しているユニリーバ(Unilever)の取り組みをご紹介します。

次世代リーダー育成プログラム(Future Leaders Program)とは

次世代リーダー育成プログラムとは、国際社会で求められる次世代のリーダーを育成するプログラムです。このプログラムには、社内から選抜して育成するプログラムと、入社時に選抜雇用して育成するプログラムの2つがあります。近年日本企業では、グローバル人材を育成するために、前者の社内から選抜して行うプログラムが人気となっていますが、今回ご紹介したいプログラムは後者のものです。

後者の次世代リーダー育成プログラムは、主にユニリーバ(Unilever)、Lenovo、グラクソ・スミスクライン(GSK)などが採用しています。具体的に考察しましょう。

ユニリーバのUnilever Future Leaders Programme (UFLP)

ユニリーバはLipton紅茶、Ben&Jerry’sのアイスクリーム、LuxやDoveの石鹸などパーソナルケア製品、またクレンザーのJiffなど、400以上のブランドを有する世界第2位の一般消費財メーカーです。本社は英国ロンドンにあります。ユニリーバはグループ全体でおよそ14万9,000人の従業員を擁し、世界190ヵ国で事業展開する多国籍企業です。

ユニリーバのUnilever Future Leaders Programme (UFLP)とは、グローバル統一のスキームのもと、入社時から責任のある仕事を任せ、グローバルリーダーを早期育成するプログラムです。3年のプログラムで、プログラム終了後マネージャーに昇進し、早期にリーダーとして活躍することができる人材を育成しています。ユニリーバの英国本社現CEOのAlan Jope氏が、このプログラムの前身の人材育成プログラム出身であることからも、ユニリーバには次世代リーダー人材育成プログラムが根付いていることがわかります。

ユニリーバの新卒採用のUFLPでは、世界中どこからでも応募可能な採用方法を導入しています。国籍や人種で区別しない多様性重視で、研修だけでなく、部署や支店をロテーションするOn the Jobトレーニング、そして専任のキャリアスポンサー(メンター)が割り当てられることが特徴で、On the Jobトレーニング:ソーシャル(メンターや上司との交流やアドバイス): 研修が、7:2:1の割合で組まれています。

この採用を可能としているのが、AIを活用したリクルート方法です。ユニリーバは毎年3万人の採用に対して、180万人の応募を受け取ると言われています。そこで、ユニリーバは AIリクルートの専門会社Pymetricsと組み、ユニリーバの社員としてのポテンシャルを見極める「ゲーム選考」を第一選考に取り入れています。そして2次選考は、HireVue社のAIによる予測分析機能のプラットフォームを活用して、与えられたテーマに応える「デジタル面接」で行われます。面接の動画から言葉、音声、表情のパターンを分析し、将来活躍できる人材を予想します。第3次選考は、仮想的にユニリーバでの実際の仕事に近い1日の活動 (プロジェクトミーティング、ビジネスチャレンジ、同僚とのチームミーティング、ラインマネージャーとの1対1のミーティングなど)を経験する「ディスカバリーセンター」です。そして第4段階で、役員との「最終面接」という選考が行われます。

このシステムによって、ユニリーバは書類選考や面接に費やす膨大な時間を大幅に削減することができた、と人事責任者が語っています。

ユニリーバのGlobal Mobility Programme

190カ国で事業を展開するユニリーバは、国境を超えた人材配置戦略であるグローバル・モビリティ・プログラムを展開しています。

ここでもユニリーバはAIの力を活用しています。ユニリーバは、2019年に新しい社内オンライン・タレント・マーケットプレイスとしてFLEX Experiencesを導入しました。FLEX Experiencesは、イスラエルを拠点とするスタートアップInnerMobility by Gloatが、ユニリーバと緊密に協力して開発した特注のプラットフォームです。

FLEX ExperiencesはAIを活用したプラットフォームです。シャインの経歴と希望に一致するあらゆるビジネス分野において、グローバルに利用可能な全ての機会をリアルタイムで特定することによって、人材育成そして適材適所の人材配置を行うことができます。

更に、ユニリーバのグローバル・モビリティ・プログラムでは、Euronetと呼ばれる上級管理職とグローバルに移動する従業員に、国籍に関係なく適用されるグローバルな給与体系が導入されています。

日本でのユニリーバの展開

ユニリーバは日本国内では13ブランドしか展開しておらず、日本国内の社員数も500人程度です。それ故新卒採用数は毎年10人前後と限られていますが、優秀な人材を集めるために、ユニリーバ・フューチャー・リーダーズ・プログラム365 (UFLP365)という大学1年生から既卒3年以内の人を対象に、いつでも世界中どこからでも応募可能な通年採用を実施しています。インターンシップあり・なしの2つの選考過程から選ぶことができ、4段階の選考は前述の内容と同じです。選考から外れても1年の期間を置けば何回でも受けられるほか、最終面接の前と入社の前に最大2年の期間を空けることも可能という革新的な新卒採用制度となっています。ユニリーバでは留学生の採用についても、日本人と全く区別なく行っています。

グローバル人材を育てるプログラムに成功している一方、早い時期からグローバル展開したユニリーバは、現地の人材に経営層のポジションを解放し、ローカルに根ざした経営を行なっていることでも知られています。ブランドマネジメントや調達の仕組みといったグローバルに構築したものを失わないようにしつつ、素早く変わる現地の消費者ニーズに対して的確に対応できる体制を維持する。グローバルな規模での統合とローカルへの適応の両方を実現する「トランスナショナル型」企業として成長を続けているのです。

日本人がグローバルに活躍の場を与えられている事例もあります。例えば、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングスの前代表取締役横田貴之氏が、英国本社のグローバル・ヘアファイナンス・ヴァイスプレジデントに就任しました。このように、リーダーシップと経営能力さえあれば、グローバルなキャリアが開かれていると証明されています。

ユニリーバのグローバル人材戦略-まとめ

ユニリーバは2020年12月期の売上高は約507億ユーロ、営業利益83億ユーロ、当期純利益80億ユーロを誇り、世界190カ国で事業を展開する多国籍企業です。その規模の大きさを維持しグローバルにビジネスを展開するため、AIを駆使した革新的なグローバル人材採用システムを導入していることをみてきました。国内市場の縮小に直面し、グローバル展開を目指す日本にとっては良い手本になるはずです。

参照)
1.第6章 オーストラリアの移民政策の現状と評価
2. Unilever Future Leaders Programme
3. The Amazing Ways How Unilever Uses Artificial Intelligence To Recruit & Train Thousands Of Employees
4. Unilever launches new AI-powered talent marketplace

20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。

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