『現代の奴隷』と揶揄される外国人技能実習生が陥る苦境

前回の記事『技能実習制度の成り立ちと問題点ー特定技能は歪みを是正できるか?』では、技能実習制度の歴史を見ていき、就労環境の劣悪さなどから生じる実習生の失踪問題について触れました。

今回は外国人技能実習生が就労先、あるいは就労前の時点で実際どのような扱いを受け、その結果失踪という道を選ぶのかを、技能実習生の人数が国籍別で最も多いベトナム人の事例を中心に見ていきたいと思います。

外国人技能実習生を取り巻く過酷な環境

前回の記事の最後に外国人労働者の「失踪」について触れました。その理由の約7割は「低賃金」だそうですが、いったいどれくらいなのでしょうか。

法務省 技能実習制度の運用に関するプロジェクトチームが2018年にまとめた「調査・検討結果報告書」によると、「低賃金」を理由に失踪した人の半数が月給「10万円以下」と回答しています。学生のアルバイトと比べても相当低いと言えるでしょう。

また、報告書に記載されている具体的な事例をいくつか取り上げると、

『約7か月の間、定額の基本給として月額6万円しか支給されず、さらに36協定に違反する月平均約60時間の残業につき時給700円しか支給されていなかった』

『休日出勤や残業時間があるにもかかわらず、割増賃金が支払われておらず、6か月間で合計約16万円の賃金不払が認められた』

『時給約400円で時間外労働をさせられていたという割増賃金不払が認められた』

などが挙げられます。

「あれ、家賃安すぎない?」と思われた方ももしかしたら居るかもしれません。

実は、外国人技能実習生の大半は社員寮など会社が提供する場所に住むため安く済んでいます。しかしながら、その住環境も問題として指摘されることがあります。中にはタコ部屋の様な場所に詰め込まれて生活することもあるようです。

例えば岡山県のとある技能実習生の事例では、20平方メートルの部屋に6人で暮らしていたそうで、一人当たりの家賃は2万円だったそうです。

20平方メートル、つまり12畳弱ほどのスペースに6人で生活するとなると、一人分のスペースはたった2畳。布団以外の広さは1畳にも満たず、荷物を置く程度の広さしかありません。この家賃、果たして安いと言えるのでしょうか。

さて手元に残ったお金で次に消費されるのは食費などの生活費です。彼ら外国人労働者は共に暮らす同僚たちと協力し、なんとか食費を切りつめます。昼飯は弁当を作り、外食はせず、酒も飲まず、月2万円で、人によっては1万円で食費を賄う人もいるそうです。「日本に来てから7キロ痩せた」などの声も聞かれます。

こうして残った4万円程度のお金。これらはどのように使われるのでしょうか。よく想像されるのが「家族への仕送り」です。在外ベトナム人が母国の家族に仕送りをすることで、その家族が国内で生活し、結果ベトナムの経済が潤います。
詳しくは以前の私の記事『世界に羽ばたき、活躍するベトナム人』を参照ください。

ところがそのような”理想”とは裏腹に、最初のうち(酷いと1~2年間)は、家族のためにお金は使えません。給料の残りはすべて借金の返済に充てられるのです。

借金100万円から始まる新天地「日本」での生活

一部の技能実習生は0から頑張るという甘いものではありません。マイナスからのスタートです。

海外移住労働者の送り出しをしながら、しっかりと関連制度を構築してきた海外移住先進国であるインドネシアや、歴史的蓄積をしっかり持ち制度も確立しているフィリピンの場合、このような渡航前に発生する借金は少ない、あるいは無い場合もあります。

ところがベトナムの場合は、渡航前に100万円前後の借金をして来日する人が多くいます。そして、多額の負債を抱えて日本にたどり着いてからが本当の闘いです。日本人より格段に安い給料で四苦八苦しながら毎日を生き延び、借金を返済し、ようやく親元に仕送りできる頃には帰国の時期となります。

現在は「技能実習2号」から「特定技能」への移行が可能になり、日本で働ける期間は伸びました。さらに特定技能で働き続け、1号から2号に切り替えることができれば、日本永住の道も開けました。おそらく、借金返済という観点においては彼らにとって良い変化でしょう。しかし、若者が甘言に惑わされ、身の丈に合わない借金をし、その返済に人生が振り回されている様子を見るのは気分の良いものではありません。それが、自分の暮らす日本国内の話なので尚更です。

外国人技能実習生を縛る鎖「保証金」

さて、借金の内訳を見てみましょう。

● 「送り出し機関」への「保証金」

● 「渡航前訓練センター」で学ぶ日本語の授業料

● ビザやパスポートの手数料

● 航空券

● 各種必要書類の手数料

大きく分けると上記のようになります。

もともと送り出し機関の定義は、日本に技能実習生を派遣する団体・企業を指し、「技能実習の準備にかかわる外国の機関の総称」でしたが、2017年11月から技能実習法が新しくなったことで「技能実習生の母国にあり、技能実習生の就職を日本の管理団体に取り次ぐ機関」と定義が厳格化され、同時に保証金問題についても取り締まりが厳しくなりました。

送り出し機関を簡潔に説明すると、営利目的でビジネス展開する「仲介業者」であり、ベトナム社会においては「労働力輸出会社」とも呼ばれている会社組織です。

彼らに収める「保証金」とは、契約期間を満了すれば手元に戻ってくる、逆に契約に違反した場合は没収される預け金であり、この「保証金」を取り戻すためには、何があっても途中で技能実習生としての就労をやめることができないのです。

受け入れ先で恵まれた環境(例えば、賃金は高くないけれども、会社の人たちとの関係が良好だったため、帰国後も「また社長さんや先輩に会いたい」など本心で言う元実習生がいます)で過ごせたために、実習修了の時まで働き続けた人もいます。

しかし、全員が全員恵まれた環境であれば「失踪」などという事態にはなりません。むしろ、劣悪な環境に陥る人の方が多くいます。事実、2020年に行われた厚生労働省発表の『実習実施者に対する監督指導、送検などの状況』によると、監督指導を行った実習実施者のうち、労働基準法の違反が認められたのは70.8%に及んだそうです。主な違反事項は

● 使用する機械等の安全基準(24.3%)

● 労働時間(15.7%)

● 割増賃金の支払い(15.5%)

となっています。

以上のように実習生が真っ当な受入先企業の下で働ける方が珍しいなかで、さらに追い打ちをかけるのが「転職が不可能」なことです。受入先企業が決まったら最後、どんなに嫌なことがあっても、辛いことがあっても、もうその企業以外では働けないのです(重大な法令違反や倒産など特有の事由を除く)。

下手に不平不満を言えば、最悪の場合、契約違反として「強制帰国」させられるかもしれません。そうなると保証金は戻ってこず、借金だけが残ります。そのような恐怖からただただ耐え忍ぶ日々を続けなければなりません。

ところでこの保証金、例え契約満了したとして返される保証があるとは限りません。一部返金や、全く返金がない場合もあるそうです。さらに最悪な場合、なんとお金だけ支払わせておいて日本に行かせない、完全な詐欺集団もいるとのこと。夢見る人を騙し、自身の肥やしにする人はどこにでもいるのですね。

なお、2017年の法改正により、保証金の授受の禁止や手数料の制限額(約40万円)というものが設けられ、要件を満たせなかった機関からの送り出しを停止するなど制度上の改善が見られました。これにより実態もまた改善されたかどうかは引き続き注視する必要があるでしょう。

国内での最低賃金が日本より大きく下回るベトナムの人々は、渡航費用の多くを借金してでも日本で働き、借金返済とともに母国の家族を助けることに希望を見出して来日します。

次回はベトナムの人々が過酷な条件下でもなお日本を目指す仕組みについてみていきましょう。

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