技能実習制度の成り立ちと実習生の失踪問題ー特定技能は歪みを是正できるか?

前回の記事『増加し続ける外国人労働者の現状と在留資格の基本』では、外国人労働者が現在どれくらい日本で働いているのか、また彼らが日本で滞在するために必要な「在留資格」とその種類について話を進めました。

今回はその在留資格の中でももっとも名前を目にする機会が多い「技能実習」と最近話題になっている「特定技能」について、詳しく見ていきましょう。

技能実習制度の変遷

まず技能実習制度はどのような経緯でできたのか見ていきましょう。

日本国内の外国人労働者の増加は、バブル景気(1986年12月~1991年2月)による人材不足の深刻化と、円高による近隣アジア諸国との経済格差の広がりにより日本に来て出稼ぎをする利点が増えたことに端を発します。

「改正出入国管理法」施行 ー 1990年

1989年12月に成立し、1990年6月に施行されました。「定住者」等の10種類の在留資格が新設され、同時に多言語による相談窓口を設置する自治体も増えましたが、移り住んできた外国人と地元住人との間に、文化や習慣、生活ルール(ゴミ捨てや騒音など)についてのトラブルが多々起きました。

また「団体管理型」の受け入れ(当時は在留資格「研修」において)も法務省告示により認められたのもこの頃です。

「企業単独型」と呼ばれる企業が海外の現地法人から職員を直接受け入れる方法は、海外に支店があることなど多くの条件が課されており、資金が潤沢な大企業向けの制度でした。

「団体管理型」は、海外との繋がりがなくても監理団体が間に入ってサポートすることにより外国人の受け入れを可能にしました。これは、人手不足が深刻な中小企業にとって低コストで安定的に労働者を獲得することができ、間に入る仲介業者にとっては大きな利潤を生むことのできる便利な制度となりました。

※監理団体とは、受け入れ先企業が実習生に適切な指導を行っているか監査する非営利団体のことです。

「技能実習制度」創設 ー 1993年

当時の名称は、正確には「外国人研修・技能実習制度」でした。「研修」という名前の通り、1年目は研修期間とされ、1/3は座学の時間として割り当てられていました。

当時、労働基準法に抵触するような扱いが横行していたそうです。というのも、1年間の「研修」期間中は労働者とみなされず、労働関連法規の対象から外されていました。受け取れるのは生活実費と研修手当のみで、最低賃金より格段に安い報酬ながら、すでにこの段階でほかの日本人労働者と変わらない労働に従事させられていたケースが多かったそうです。

入管法改正により在留資格「技能実習」設立 ー 2009年

「研修」と「実習」の境目が曖昧であるとの指摘により、この年から「研修」期間がなくなり、入国してすぐ「技能実習」ができるようになりました。現在の「技能実習制度」の原型がこの年に作られたのです。この時はまだ技能実習2号までで、最大でも3年間しか日本に在留できませんでした。

技能実習法施行 ー 2017年

「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行され、これにより送り出し国と2国間の「協力覚書」の締結、及び「外国人技能実習機構(OTIT)」の創設がなされました。

「協力覚書」は、送り出し機関の認定や認定の取り消しについて定め、また同機関が実習生の失踪予防や失踪時の損害賠償担保として預かる「保証金」についての問題解決が期待されました。なお、「送り出し機関」とは日本に行きたい実習生を募集・送客する機関のことです。

「外国人技能実習機構(OTIT)」は実習制度の適正な実施及び技能実習生の保護を目的として作られ、なにより「監理団体」に対して強制力を持って実態調査が可能になったことで、直接法務大臣や厚生労働大臣から改善命令、許可取り消しなどの措置ができるようになりました。

そしてこの年、人手不足がかねてから問題視されていた「介護」が技能実習制度に追加されました。また技能実習3号が作られ、技能実習生は最大で5年間働けるようになりました。「国際貢献」より「人手不足解消」の色がより濃くなったと言えるでしょう。

「特定技能1号・2号」創設 ー 2019年

人手不足の問題を抱える14の業種において、外国から労働力を補充する目的で創設されました。技能実習2号を修了した人が、そのまま特定技能に連結することを可能としており、本稿執筆時点では、特定技能の約84%が技能実習からの移行です。

「技能実習」と「特定技能」の比較

「特定技能」は創設までの歴史を見ると分かるように、技能実習制度に生じた本音と建前のギャップ及び諸問題を解決するために作られた制度だと言えます。ここからは、二つの制度にどのような差があるのか見てみましょう。

制度の目的

「技能実習」…技術移転による国際貢献が目的。発展途上国出身の人々に、母国では習得困難な技術を日本の現場における実習を経て学んでもらい、帰国後にその技術を活用して母国の経済発展に貢献してもらうことが目的。
「特定技能」…日本企業の人手不足を補うことが目的。

就業可能な業種・職種

「技能実習」…1号(在留期限1年間)は技能実習生制度の目的である技能移転や国際貢献に寄与する職業や作業であれば基本的にどの職種でも受け入れ可能。1号から2号(在留期限プラス2年間)になれる移行対象職種の数は85職種156作業、2号から3号(在留期限プラス2年間)への移行対象職種は77職種135作業。
「特定技能」…1号(在留期限5年間)は建設業、介護など人手不足が認められる14分野。これらの仕事は単純労働とみなされ、これまで原則として外国人労働者の従事は禁止。2号(在留期限なし)は建設業、造船・船舶工業の2分野のみ。なお、2022年春を目標に14分野のほぼすべての業種で2号拡大を検討中とのこと。

転職の可否

「技能実習」…不可。所属先の企業が倒産あるいは技能実習2号から3号への移行時のみ転籍が可能。
「特定技能」…同一職種であれば可能。

「家族滞在」の可否

「技能実習」…不可。
「特定技能」…2号ならば母国にいる家族を日本に呼ぶことが可能。

就労前後に関与する当事者の数

「技能実習」…「監理団体」、「技能実習機構」、「送り出し機関」など、受け入れ先企業と実習生の間に複数の企業・団体が関与。
「特定技能」…原則として受け入れ先企業と労働者のみ。※登録支援機関に管理・支援業務の委託をする場合を除く。

受け入れ人数の制限の有無

「技能実習」…制限あり。技術・技能移転が目的のため、適切な指導ができる範囲で受け入れが可能。
「特定技能」…制限なし。ただし建設業、介護は「外国人の適正な就労環境確保を配慮」したことで、例外として制限が設けられています。

以上6つが「技能実習」と「特定技能」の主な違いです。

技能実習生の失踪問題

技能実習制度は、日本のニーズに合わせながら実習生の保護も視野に入れ、度重なる法改正や特定技能の創設まで行われてきました。

特に実習生の就労環境についてはたびたび問題としてニュースに取り上げられます。「現代の奴隷」と揶揄されてしまうほど理不尽な環境で、実習生の一部はその過酷さに耐えきれず、あるいは別の目的のため意図的に実習先から逃亡します。これが技能実習生の失踪問題です。

失踪問題の全体像を把握するため、出入国在留管理庁が公開している『技能実習生の失踪者数の推移(平成25年~令和3年上半期)』から一部情報を抜粋します。

平成28年 平成29年 平成30年 令和元年 令和2年
総数 5,058 7,089 9,052 8,796 5,885
ベトナム 2,025 3,751 5,801 6,105 3,741
中国 1,987 1,594 1,537 1,330 964
カンボジア 284 656 758 462 494
ミャンマー 216 446 345 347 250
インドネシア 200 242 339 307 240
タイ 37 95 82 61 62
フィリピン 91 89 65 85 48
モンゴル 31 31 38 42 36
バングラデシュ 19 17 13
ラオス 14 16 3

令和に入ってから減少傾向にあるものの、平成30年まではほぼ毎年1,000人単位で失踪者が増加していました。

ベトナム人の失踪者が多い=ベトナム人はすぐ逃げるという印象を持つ人もいるようですが、技能実習生の約半分はベトナム人であり、母数の多さを考えると短絡的にそのようには結論づけられないでしょう。

また法務省によれば失踪動機の約7割は「低賃金」だそうで、次いで「実習後も働きたい」、「指導が厳しい」、「労働時間が長い」、「暴力を受けた」となっています。

それでは「低賃金」とはいくらぐらいなのでしょうか?また、「指導が厳しい」とは具体的にどのような内容なのでしょうか?現代の世の中で「暴力」が横行しているというのもにわかには信じがたい話です。

次回は「技能実習制度」の抱える闇に向き合っていこうと思います。

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