2019年4月、改正入管法の施行により「特定技能」という外国人労働者受け入れについての新制度が出来上がりました。それからすぐ、新型コロナウイルスの影響で長らく入国制限が実施されました。ようやく少しずつ入国できるようになり、皆さんの周りでも外国人が熱心に働く姿をよく見かけるようになるでしょう。
彼らがいかな過去を背負い、現在どんな立場にあるか、未来に何が待ち受けているか、はたから見る普通の日本人にはまったく理解の及ばないことです。今回はその「はたから見る日本人」の代表であった筆者の目線で、外国人労働者の実態に迫っていこうと思います。
2024年の外国人労働者数の推移と現状
実際に今どれくらいの外国人労働者が日本で働いてるんでしょうか?増えてるのか?またはコロナ禍により減っているのか?結論を言うとほぼ一貫して増えています。
2012年を除き、コロナ禍の現在を含め全て増加傾向にあります。
ちなみに2012年の減少理由については、当時の雇用失業情勢が厳しく、 同年7月以降、自動車などの輸送用機械や電気機械などを中心とした製造業の事業所を離職した外国人がたくさんいたことによるそうです。
2023年10月末の段階で外国人労働者人数は2,048,675人と過去最高を記録しました。前年比増加率は12.4%で、過去10年の中でも目覚ましい伸びを記録しました。
産業別に見てみると、下記の特徴がわかります。
- 2021年頃から卸売・小売業が製造業を上回り、現在最も多く外国人を受け入れている業種である。
- 宿泊業・飲食サービス業で働く外国人もかなり増えており、遠くないうちに製造業を抜くかもしれない。
- 建設業で働く外国人の伸びが特に顕著であり、2015年から2023年までで4倍以上に増えている。
- 医療・福祉は超高齢社会の日本において特に求められる業界だが、現時点ではそこまで数が多くない。
- 他の業界と比較して、情報通信業や教育・学習支援業で働く外国人の増加は緩やかである。
また、在留資格に見てみると、下記の特徴がわかります。
- 令和元年から5年までで特定技能は14万人近く増えており、最も大きな伸びを記録した。
- 技術・人文知識・国際業務も過去5年間で10万人以上増え、企業の主要な戦力として評価されている様子が窺える。
- 技能実習は入国制限により一時人数は減ったが、令和5年には回復するだけでなく過去最高を記録した。
- 資格外活動(ほぼ留学生)も入国制限により一時人数は減り、令和5年には回復基調にあるものの技能実習ほど増えていない。
- 仕事内容や雇用形態等に制限のない永住者は着実に人数を増やし、技能実習に次いで2番目に人数が多い。
出典:厚生労働省『「外国人雇用状況」の届け出状況まとめ』をもとに資料を作成
在留資格って何?それぞれの特徴について
総数や業界別はわかる人も多いでしょうが、在留資格別については捉えづらい人もいると思います。「在留資格って何?それぞれの種類で何が違うの?」という疑問を持つ方に向けて、それぞれの特徴を以下で説明していきます。
「在留資格」とは
在留資格とは、外国人が日本に入国し、滞在するために必要な許可です。外国人は来日する前にその目的を母国の日本大使館や領事館に資料を提出して説明し、法務省の審査を受けて許可を受けなければなりません。
なお、VISA(査証)とは別物です。そして、一般に就労ビザと言われるものは就労できる種類の在留資格を指します。紛らわしいですね。
どんな在留資格が許可されたかは本人が所持している「在留カード」に明記してあります。注意点としては、日本で行える活動(≒仕事)は在留資格に定められたものでないといけません。それ以外の活動をすると「不法就労」や「不法滞在」の罪に問われる恐れがあります。
また、雇っていた側も「不法就労助長罪」として3年以下の懲役または300万円以下の罰金が課せられてしまいます。「知らなかった」は通用しないので、外国人を雇用する場合は必ず「在留カード」やパスポートに付してある指定書の提示を求め、就労可能な在留資格を持っているか確認しましょう。
在留資格は合計29種類ある
在留資格は全部で29種類あります。一つひとつ覚えていくのは現実的ではないので、大きく4つに分類した上で概要を見ていきましょう。
- 身分系の在留資格
- 活動系の在留資格
- 働けない在留資格
- 特定活動
身分に基づく在留資格
身分系在留資格は日本にいること自体を許可するもので、在留期限のないものが多い上に従事する仕事内容や雇用形態などに制約がなく、日本人とほぼ同じように雇用できます。歴史的な背景から、フィリピン、ブラジル、ペルー、中国、韓国などの国出身の方が多いです。
在留資格の種類 | 説明および具体例 |
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定住者 | 日系人、難民などに与えられる。在留期限がある。 |
永住者 | 10年以上日本に継続的に在留した人が申請できる。在留期限が無い。 |
永住者の配偶者等 | 永住者と結婚した配偶者、その子供に与えられる。在留期限が無い。 |
日本人の配偶者等 | 日本人と結婚した配偶者、その子供、その特別養子に与えられる。在留期限が無い。 |
活動に基づく在留資格
活動系在留資格は、特定の活動を行うために日本への入国と在留を許可されるものであり、在留期限や従事できる仕事の種類などに制約があります。身分系在留資格と比べると管理の手間やリスクが大きく、知らないうちに違反行為をしてしまう企業も散見されます。
該当する在留資格は19種類と多く、「技能」「特定技能」「技能実習」といった似た名称のものがあったり、「1号イ」「1号ロ」「1号ハ」「2号イ」「2号ロ」「2号ハ」など同じ在留資格の中で細分化されるものがあったりして、理解するのも一苦労です。
在留資格の種類 | 簡単な説明 |
---|---|
外交 | 大使、総領事 |
公用 | 大使館職員・領事館の職員、その家族 |
教授 | 大学や高等専門学校の教授、助手、非常勤講師など |
芸術 | 作曲家、画家、著述家 |
宗教 | 宣教師 |
報道 | 記者、カメラマン |
高度専門職「1号・2号」 | ポイント制で学歴・職歴・年収等が優秀と判断された者(1号は5年間、2号は無期限在留可能) |
経営・管理 | 経営者、管理者 |
法律・会計業務 | 弁護士、公認会計士 |
医療 | 医師、看護師 |
研究 | 研究者 |
教育 | 語学教師(学校機関) |
技術・人文知識・国際業務 | 技術者、通訳、デザイナー、語学教師(私企業)など |
企業内転勤 | 外国の事業所からの転勤者 |
介護 | 介護福祉士 |
興行 | 俳優、ダンサー |
技能 | 調理師、スポーツ指導者、航空機操縦者、加工職人 |
特定技能「1号・2号」 | 国内人材を確保することが困難な状況にある産業分野で働く外国人 |
技能実習「1号・2号・3号」 | 技能、技術又は知識を身につけるため開発途上地域から来る外国人 |
働けない在留資格
在留資格の中には、「観光」などそもそも就労が許されていないものもあります。全部で5つあり、特別な許可なく、これらの在留資格で働くと不法就労となってしまいます。
在留資格の種類 | 説明および具体例 |
---|---|
文化活動 | 収入を伴わない芸術活動・文化研究など。 |
留学 | 日本の大学、高等学校、専門学校で教育を受ける活動。 |
研修 | 技能実習と留学の活動を除く技能の習得を行う活動。 |
家族滞在 | 「専門的・技術的分野の在留資格」「文化活動」「留学」の資格を持つ外国人の扶養家族。 |
短期滞在 | 観光、保養など |
上記の表を見て違和感を覚えた方もいると思います。今やコンビニエンスストアや飲食店、荷物の配送センターなどは留学生に支えられていると言っても過言ではなく、日本全国で働く留学生を見かけます。彼らは不法就労をしているのでしょうか?
当然そんなことはなく、資格外活動許可という制度を使って合法的に働いています。本来は学ぶことが主たる活動ながら、長い間日本で生活するためには安定した収入が必要でなので、主たる活動に悪影響を及ばさない範囲内で就労を許可する制度です。従って、1週間に28時間までという時間的な制約が課されます。
実は、留学生の身分で働ける国というのはそこまで多くはなく、日本留学が人気な理由の一つにこれがあります。一部メディアでは「偽装留学生」として報道されています。企業から見ても、時間的制約はあっても仕事内容の制約はないため、何でもできる労働力として利用しやすい制度です。
また、授業のない長期休みの期間は、主たる活動に悪影響を及ばさないので週40時間働くことも可能となります。こうなってくると、企業が主戦力として迎え入れたくなる気持ちもわかります。事実、彼らの労働なしには成立しなくなる事業も少なくないでしょう。
特定活動
この制度はもともと「在留外国人の活動範囲が広がるたび、それに合った在留資格を増やすことは大変」「法改正はすぐには無理」という声に応えて作られました。国会で審議せずとも、法務大臣の告示等で増やしたり減らしたりできるので、現実にあわせた柔軟な運用を可能としています。最近だと最近ではコロナ禍で帰国できなくなった技能実習生・留学生への緊急措置やウクライナやミャンマーから避難民として受け入れるために、この特定活動の種類が増えました。
特定活動は全部で50種類近く存在するため、専門家でもない限りその実態を正しく把握することは困難と言えます。もっというと、出入国在留管理庁の職員の方でさえ認識が揃っておらず「問い合わせたけれど結局はっきりとした回答は得られなかった・・・」という事態が度々発生します。不満も湧いてくるとは思いますが、緊急時の暫定的な在留資格であるため安定していないと理解していただき、根気強く入管の方とやり取りを進めてください。
まとめ
日本で働く外国人は、あらゆる業界・職種・地域で増え続けています。そして、日本の状況を考慮すれば、今後ますます多くの外国人労働者を受け入れていくことでしょう。
彼らの労働なしには産業や社会が回らなくなる一方、「日本国籍を持たない外国人」という括りからは外せないため、出入国在留管理庁を中心として彼らの在留や活動状況をコントロールする仕組みは当面変わらないでしょう。そして、直接全てを監視するのは現実的に無理なので、労働者として受け入れる企業を監視することで間接的にコントロールすることとなります。つまり、外国人を雇用する企業は、許可申請や届出などの趣旨や内容を常に理解しておかなければならないということです。
本記事の前半でご紹介した外国人労働者の動向もおさえつつ、実務面で必須となる関係法令のことも理解するのは大変だとは思いますが、人事戦略の一つの軸になっていくと考えられますので、是非MICHIをはじめとする各種メディアから積極的に情報を集めていってください。
劇団民藝所属。俳優として活躍する傍らソーシャライズで多文化共生を推進すべく主に動画編集や記事の執筆、インタビューなどを担当。舞台や歌、踊りなど人類がはるか昔から共有していた活動にこそ相互理解の本質があると考え、人の心に触れる術を日々模索している。