ベトナムで技能実習制度が拡がる理由

前回の記事『「現代の奴隷」と揶揄される外国人技能実習生が陥る苦境』では、なぜ外国人労働者が失踪する事件が起きてしまうのか、その構造について考察していきました。

月給15万円以下の安い給料、狭い寮に押し込まれたわびしい生活、それらに耐えて残したお金は本国で借金した渡航前費用の返済に充てられる。この負の連鎖ともいえるただ中に、なぜ彼らは自ら身を沈めていくのでしょうか。

今回は外国人技能実習生になぜベトナム人が多いのかという理由と、どんどん拡大していっている構造について見ていきます。

ベトナムが海外派遣に積極的な理由

2021年6月末時点の調査『在留外国人統計』で、日本に住む在留外国人を国籍別にランキングすると

人数 割合 増減
中国 745,411人 26.4% -4.2%
ベトナム 450,046人 15.9% +0.4%
韓国 416,389人 14.7% -2.5%
フィリピン 277,341人 9.8% -0.8%
ブラジル 206,365人 7.3% -1.0%
ネパール 97,026人 3.4% +1.1%
インドネシア 63,138人 2.2% -5.5%
米国 53,907人 1.9% -3.3%
台湾 52,023人 1.8% -6.9%
タイ 51,409人 1.8% -3.7%

となります。

ベトナムは2020年に韓国を抜き、現在2位の地位に躍り出ました。まだまだ中国との差は大きいですが、コロナ禍以後も人数が増加したのはベトナムとネパールのみです。

これだけの勢いでベトナムが国民の海外派遣を行い続けるのには、政府がかねてから「労働力輸出政策」を掲げ、労働者の送り出し人数の目標値を設定している上、送り出しを担う仲介会社が利潤を追求しやすい状況であるためです。

「労働力輸出」政策において、ベトナム政府が期待するのは国内の失業対策に加え、『世界に羽ばたき、活躍するベトナム人』でも触れた海外出稼ぎ労働者からの送金です。

ベトナムの移住労働者の送り出しは、1975年のベトナム戦争終結以後から1986年のドイモイ(刷新)政策前後の時期と、それ以降から現在までとで分けられます。

前者は「政府主導の社会主義兄弟国への契約労働者送り出し期」、後者は「労働力輸出政策と移住産業の拡大による移住労働者送り出し期」とされています。

ベトナム戦争がようやく終結した後も続いた各地での戦争、急速な社会主義化や経済状況の悪化、また国外に脱出した人々への対応にも世界から批判を受け、ベトナムは国際社会から孤立しました。

こうした国際情勢を受け、ベトナムの外交は旧ソ連をはじめ東側諸国との関係が中心になりました。この時期にはベトナムから旧ソ連や旧東ドイツ、旧チェコスロバキアなどの「社会主義友好国」への労働者送り出しが行われました。

1986年、ベトナム政府が国際社会での孤立と経済の行き詰まりの中で改革開放政策である「ドイモイ政策」を採択、対外関係を社会主義圏以外に広げました。

1992年の日本による対越援助の再開、1995年のアメリカとの国交正常化、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟など国際社会との交流拡大により、近年ベトナムから日本、台湾、韓国など、アジア諸国への移住労働者送り出しが活発化していきました。

また政府の移住労働の推進策には、移住労働の希望者が仲介会社に支払う手数料向けの融資も含まれています。国営銀行などが手数料の貸し付けを行っています。

技能実習生はどのように集められ、カモにされるのか

仲介会社である送り出し機関はビジネスの拡大に向けて、移住労働希望者を積極的に集めます。特に、農村部でのセミナーや、インターネット、テレビでの広告宣伝を行ったり、「ブローカー」と呼ばれる人物を派遣して移住労働について美化した宣伝を通じて勧誘してもらったりしています。

“美化した宣伝”とは、「日本は稼げる」「収入は20~30万は当たり前だし、残業手当もつくから基本給の何倍にもなる」などが挙げられます。

そして、実際には聞いていた話と全く違う世界に送り込まれてしまう人が続出していることは、『「現代の奴隷」と揶揄される外国人技能実習生が陥る苦境』に書いた通りです。

このような幻想を見せられて、ベトナムの技能実習生たちは身の丈に合わない借金をし、日本にやってきます。一方、ブローカーは送り出し機関から斡旋料を受け取り、「監理団体」や「受入先企業」は接待や金銭のキックバックを受けます。当然、こういった費用は技能実習生が実質的に負担することとなります。

ベトナム人の平均月収は約34,000円と言われており、10年前と比べて2倍以上になったとはいえ、日本の平均月収の1/10程度しかありません。そして、ベトナムは貧富の差が激しく、貧しい農村などに暮らす人々の月収はさらに少ないものとなります。

ゆえに、親の貯金や親戚に頭を下げてお金を工面できる人はまれで、ほとんどの人は渡航前にかかる100万前後の金額を支払えず、借金という方法を取ってしまうのです。

そこで自制できれば良いのですが、美味しい話につい飛びついてしまう気持ちもわかります。「騙される方が悪い」とか「自分で日本に来ることを決めたんだろ」という意見に私は違和感を覚えます。

技能実習修了後の人生

さて、技能実習制度は発展途上国への「技術移転」が目的にもかかわらず、基本的には単純作業しかすることができません。

酷い事例だと「実習が終われば国に帰るあなたに、会社の技術を教えたところで自社の利益に繋がらない」と言われたケースもあるそうです。

技能実習制度の目的からすればこれは明らかに逸脱行為ですが、多くの受入企業はそもそも人手不足解消の手段として技能実習生を活用していますので、そこらじゅうでこの様な事態が起こりました。

このような状況で実習を修了し、”技術移転”がなされた後、彼らの人生はどうなるのでしょうか?

実は、無事借金を返済できたとしても、その技術を自国の産業発展に活かすにはいくつもの障害があります。

例えば建設業を取り上げると、農村出身者が日雇いという非正規雇用状態で、都市部などに出て建設現場で働くケースが多いようです。

安全管理は不十分で、サンダル履きで作業をする姿もよく見かけられます。現場で指揮を執る立場になれば一定の収入もあるでしょうが、そうでなければ危険と隣り合わせの不安定な労働となります。

また日本とベトナムでは建設の仕事方法や技術が異なるので、せっかく「技能実習生」として日本で技術を学んだとしても、帰国後仕事に活かせるとは限らないのです。金属加工の仕事など、一部例外はあるものの、技能実習経験者が母国でも技能実習で学んだ知識や技術を使える機会は限られています。

つまり、技能実習制度を利用したところで、技能実習生は彼ら以外の人々の都合の良いビジネスの道具となり働かされ、本人たちは借金などのリスクを背負いながらなんとか技術を持ち帰ったとしても、それを活かす場はほとんど無いのです。

そのため、実習生の中には「技能実習生の送り出しで自分もお金持ちになれるのでは?」と目を付け、送り出された側から今度は送り出す側になる人もいます。

送り出し機関を設立したり、渡航前訓練センターで日本語を教えたり、ブローカーになったりする方が、技能実習制度で身につけた知識・技術を活かすよりもはるかに稼げます。こうして技能実習制度の負のスパイラルを、彼ら自身がどんどん拡大させていっているのです。

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