「ダイバーシティ経営」実践のすすめー外国人雇用に力を注ぐ企業の取り組み その3

  • 2022-4-27

前回の記事『「ダイバーシティ経営」実践のすすめ-外国人雇用に力を注ぐ企業の取り組み その2』では、経済産業省から表彰を受けた「ダイバーシティ経営」を最先端で行っている二つの企業に焦点を当てて解説していきました。

今回も「ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれた企業のうち、外国人材雇用に重きを置いた企業についてお話していきたいと思います。

フジイコーポレーション株式会社の場合

1865年(慶応元年)創業という老舗中の老舗であるフジイコーポレーション株式会社(以下同社)は、新潟県燕市の機械メーカーです。

農具である千歯こぎ(稲刈り後、干した稲の穂先から種籾を取り出すための道具)の生産からスタートし、現在は除雪車や農業機械の製造・販売等を主要事業としています。特にディーゼルエンジン搭載除雪機は海外1位、国内2位のシェアを獲得、2007年にはフィンランドのサンタクロース村公認として同社の除雪機が選ばれました。

もともと多様な人材を受け入れる企業文化でしたが、2000年代後半以降、変化の激しい市場に対応するために、より多様な人材を獲得する必要に迫られました。

職場環境の整備に着手し、就業規則の改訂や女性の新卒や高齢者、外国人材の採用や意見の投影を積極的に行い、彼らが組織の活性化と戦略強化に貢献したおかげで、生産性や利益率の向上が実現しました。

2009年に経済産業省「元気なモノづくり中小企業300社」と「雇用創出企業1400社」に、2013年に同省「ダイバーシティ経営企業100選」に選定、その前後でも数々の表彰を受けています。

フジイコーポレーション株式会社 経営課題に対する取組の歴史

年度 取組内容
2007

新潟県「世界にチャレンジするモノづくり企業」選定

除雪機がサンタクロース村公認除雪機に認定

2008

初の女性の新卒採用

2009

経済産業省「元気なモノづくり中小企業300社」選定

同省「雇用創出企業1400社」選定

2010

再雇用に関する就業規則改訂

2013

バングラデシュ出身の外国人材採用

経済産業省「ダイバーシティ経営企業100選」選定

2015

「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞 審査委員会特別賞受賞

2017

地域未来けん引企業選定

2021

厚生労働省「障がい者雇用優良事業所等表彰」理事長表彰、理事長努力賞受賞

2013年に「ダイバーシティ経営」企業の一員として表彰されて以後も、業績だけでなく多様性の面での評価が高く、同社が人材育成や彼らひとりひとりの能力を最大限に引き出すことに力を入れていることが伺い知れます。

150年以上の長い歴史のなかで起こった様々な環境の変化や困難の局面を如何に乗り越え、また現在でも第一線で活躍し続けられるパワーの源は何なのかを見ていきましょう。

ダイバーシティ経営推進のための取組

長い歴史を持つ同社は、昔から政治的信条などが異なっていても、様々な人材が活躍できる寛容な企業文化があったそうです。つまりもともと「ダイバーシティ経営」を行ってきたことで、これだけ長い年月の企業競争にも生き残り、日本だけでなく海外でも活躍できているのでしょう。

ところが近年、除雪車や農業機械の分野において変化が起こり始めました。

ひとつは、女性や高齢者の利用が増えてきたことです。彼らに支持される製品を生み出すためには、男性とは異なる視点を持つ人材が必要となりました。

また、先述した通り同社の除雪機がサンタクロース村公認として選ばれるなど、海外での知名度は上がってきているものの、今後さらに海外展開を積極的に推し進めるためには、グローバルな感覚を持った人材も必要とされました。

“企業は社会の縮図であり、多様化する社会構造に対応しなければ、企業の存続はあり得ない”という経営理念のもと、まずは女性をはじめ高齢者、障がい者の社員が思う存分活躍できるようにと、億単位の出資で設備の刷新を行いました。

老朽化していた本社社屋と工場を新設、フルフラットの床、自動シャッターの設置、女性用トイレには特に女性社員の意見を重点的に取り入れ、きれいで使いやすいものになりました。

これらの工夫のおかげで、2008年に女性の新卒採用に成功、その後も継続的に女性の新卒採用が実現しています。

また、2010年に再雇用に関する就業規則を改訂、もともと65歳まで働けるところを希望すれば70歳まで働けるよう延長、これがテレビ番組に取り上げられたことで世間からも注目されました。

外国人材に対してはどのような取り組みを行っているのでしょうか。以前から同社は外国人留学生を対象とする1ヶ月~半年間のインターンシップを実施していましたが、2013年に地元新潟大学大学院を卒業したバングラディッシュ出身の外国人材を正社員として受け入れました。

海外で同社の製品を販売する際、国内と同質のサポートが難しいため、製品に同梱するマニュアルを詳細なものにしておくことが求められます。ところが製品に関する技術英語のレベルは高く、英語版マニュアルの充実化が海外展開を目指す同社にとって課題となっていました。

そこで大学院で電気・電子分野を専攻し技術英語にも精通した上述の外国人材を招き入れ、日本人社員が同社製品に関する知識を補完することで、英語版マニュアルの充実化という課題は成し遂げられました。

また当初は外国人材採用に当たって、食べ物や宗教などの面で日本の環境に適合できるかどうかを心配していたものの、相互理解により文化的違いを乗り越えられました。

外国人社員に対して配慮が必要な点について、逆に日本人社員がその習慣を学ぶことによって、日本人社員の意識の国際化に繋がります。外国人社員と日本人社員の共同作業により、同社内部の国際化と海外展開戦略の強化が一度に実現したのでした。

ダイバーシティ経営の成果と今

2020年の段階で、同社は先述のバングラディッシュからの人材のほか、ミャンマー、韓国、インド、トルコからの外国人材を専門的・技術的分野の在留資格で雇用しています。

彼らは外国籍だということを忘れてしまうくらい社内に溶け込んでいます。これは、国籍などの属性よりも、その人が持つ特性に注目しよう、という同社の社風によるものです。

住居や生活習慣などの困りごとについては日本人社員が支援を都度行うものの、原則特別扱いはしないそうです。外国人材5名は語学力と各人の専門能力を活かした業務を行っており、その結果、海外向けの売上高も年々拡大傾向にあります。

入社前のインターンシップについても、単なる会社見学や日常業務の補助的業務を行わせる内容ではなく、期間に応じて同社の業務に関連する課題を与え、自分なりの回答を提示してもらう実践的なものにしています。

この「自社の持つ課題を敢えて与えて回答させる」というやり方は、実践的であると同時に体験する側からの受けも良く、このインターンシップを受けられたことが入社の決め手とする人も多いようです。

インターンシップ期間中は、同社社員が助言や指導を行うことで、入社後の実際に働く環境をイメージでき、インターンシップ終了後、最終面談で本人の意思を確認したうえで採用の可否を決めているそうです。

海外で開催される外国人向けの就職イベントにも同社は参加しています。興味・関心がある外国人には上述のインターンシップを体験してもらい、双方納得できる形での採用活動を行っています。

“社員は仲間であり戦友である”の言葉に見られるダイバーシティ経営の本質

以上のような外国人材に対してのアプローチと同様、女性や高齢者に対しても性別や年齢ではなく、それぞれの特性に注目したアプローチを行うことで各人の能力を最大限活かし、今日までの業績につなげてきました。

同社社長曰く“社員は仲間であり戦友である”とのことですが、上に立つ人が人材それぞれの特徴をきちんと把握し活かせるというのは非常に心強い事だと思います。

前回の記事に出てきた「行動ガイドライン」の内容と照らし合わせると、視点1(経営陣の取組)と視点2(現場の取組)が現場寄りにギュッと一体化した印象で、その仲間意識の強さから視点3(外部コミュニケーション)が自ずからついてきたのでしょう。

裕生さんプロフィール

劇団民藝所属。俳優として活躍する傍らソーシャライズで多文化共生を推進すべく主に動画編集や記事の執筆、インタビューなどを担当。舞台や歌、踊りなど人類がはるか昔から共有していた活動にこそ相互理解の本質があると考え、人の心に触れる術を日々模索している。

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