これまで当ブログでは、数回に渡ってグローバル人材についてその性格や必要性について述べてきました。では、すでに海外進出をしている企業の実情はどうなっているのでしょうか。
以下、海外進出企業を対象に実施された、グローバル人材の確保状況等に関する意識調査の結果を参考に見ていきます。
調査概要
調査の対象となったのは、「海外進出企業総覧会社別編2015年刊」(株式会社東 洋経済新報社)に掲載された全ての海外進出企業4,932社。そのうち980社から有効回答を得ています(WEBによるオンライン調査912社、実地調査 68社)。
調査の内容は大きく以下の4つに分けられます。
- グローバル人材の確保状況
- 新卒採用社のグローバル人材としての評価
- 大学に求める取組内容
- 理想的な留学期間
今回は、一つ目の「グローバル人材の確保状況」を中心にご紹介します。海外展開に必要な人材には、現地法人・海外支店を設立・開設する社員や、現地の代表者、管理者などが挙げられます。
それぞれの職層に対してどの程度人員を確保できているのか、企業にアンケートを実施したところ、どの項目でも、不足および、どちらかといえば不足が過半数を占める結果となりました。
人材の確保状況
「現地法人・海外支店の代表者」について、不足、またはどちらかといえば不足と回答した企業の割合は比較的少ない結果(59.2%)となっていますが、それでも半数以上の企業が不足傾向にあることが分かりました。それ以外の3項目については、いずれも不足またはどちらかといえば不足と回答した企業が60%以上となりました。
特に「現地法人・海外支店を設立・開設する社員 」は、不足が19.4%、どちらかといえば不足が47.2%と、66%以上の企業が不足を感じており、他の職層に比べて高い水準にあります。これは、海外進出・展開において知見があり、かつ設立に向けて行動ができる人員が不足していると言えるでしょう。
海外事業に必要な人材の採用状況
では、企業はどのような人材を採用しているのでしょうか。
一番多くの回答を得たのは「国内のノウハウのある日本人(中途採用)」。次いで「国内の日本人の新卒者」となっています。
一方で「国内の外国人」と「海外の外国人」を採用していると回答した企業はいずれも40%に満たず、少ない傾向にあります。言語や習慣、社内コミュニケーションなど、外国人を採用するには多くの課題がありますが、すでに海外進出している企業であっても、外国人の割合は低い状況にあることが分かります。
また、大半の企業が「国内の日本人」を採用している一方で、「海外の日本人」は「その他」の次に少ない結果が出ています。これには雇用条件や、海外で転職活動を行う日本人の数などが影響していると考えられるでしょう。
留学生の採用状況
留学生の採用状況に関しては、「外国人の留学生」が最も多く50.8%の企業が、次いで「日本人の留学経験者」が44.8%の企業が採用していると回答しています。しかし、「採用していない」も少なくなく、採用において留学経験は必ずしも重視されているわけではないことが考えられます。
「グローバル人材」の新卒採用者
※グローバル人材…日本人としてのアイデンティティや日本の文化に対する深い理解を前提として、豊かな語学力・コミュニケーション能力、主体性・積極性、異文化理解の精神等を身に付けて様々な分野で活躍できる人材。(政府による定義)
グローバル人材の新卒採用に関しては、50%以上の海外進出企業が増えたと回答しています。「変化していない」と回答した企業も多くいますが、「やや減少」と「減少」が合わせて7.5%と、全体的には新卒のグローバル人材の採用数が増えていることが分かります。
次のグラフは、実際に採用された新卒者が、同じく10年の間でどのように変化したかを調査した結果です。グローバル人材の能力を「語学力・コミュニケーション能力」、「主体性・積極性」、「異文化理解精神」の3つに分け、それぞれの変化傾向を表しています。
「語学力・コミュニケーション能力」の向上および、やや向上の回答が多く、半数以上の企業が向上傾向にあると考えています。
一方で「主体性・積極性」が向上していると回答した企業は少ない割合となっており、継続して取り組む必要がある課題とも言えるでしょう。
前回の記事『海外進出に求められる人物像: グローバル人材の7つの資質』でもお伝えした通り、グローバル人材は語学力・コミュニケーション能力だけでなく、セルフスターターであること(主体性・積極性)や異文化を理解する能力なども必要です。
海外進出において、グローバル人材の確保は大きな課題の一つであり、成功への重要な鍵でもあります。国は、グローバル人材の養成に向け、外国語教育の強化、高校生・大学生等の留学生交流・国際交流の推進、国際的な高等教育の質を保証する体制や基盤の強化に取り組むとしていますが、同時に、企業側も体制を整えることが求められます。どのような人材を必要としているのかや、どのような人材が不足しているのか。社内にグローバルに活躍できる人材を育てる環境はあるのか。しっかりと見極めて海外進出に備えましょう。
参考:『グローバル人材育成の推進に関する政策評価書』(2017年7月 総務省)
グラフ出典:『グローバル人材育成の推進に関する政策評価書』「2 グローバル人材の確保状況等に関する企業の意識調査」(2017年7月 総務省)
グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。