2023年5月26日、日本語教育機関の教育内容などを国が審査・認定する制度を定めた「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律(日本語教育機関認定法)」が国会で可決・成立し、2024年4月に施行されました。
今回の記事では、この「認定日本語教育機関制度」の内容と、日本語教師に与える影響について考えてみます。
認定日本語教育機関制度とは?
日本語教育界に新たに導入される「認定日本語教育機関制度」は、日本語教育の質を確保し向上させることを目的とした制度です。この制度は、留学生や労働者など多様な目的を持つ外国人に対する適切な日本語教育を提供するために設けられました。
現在、日本には多くの日本語教育機関がありますが、その質は一様ではなく、基準や制度が不足しているとも言われています。そこで、政府はこの新制度を導入し、具体的な基準を設けることで、日本語教育の質を向上させることを目指しています。具体的には、適切な数の教員配置、教育上及び保健衛生上適切な施設と設備、文化庁の「日本語教育参照枠」に対応した教育課程、学習上及び生活上の支援体制を整えることなどが求められます。
この制度は2023年に法律として成立し、2024年から具体的な運用が開始されます。また、既存の日本語教育機関には2024年4月から5年間の経過措置期間が設けられ、制度に対応する準備が行われます。
認定を受けた日本語教育機関は、その情報が公開されるため、外国人が日本語学校を選ぶ際の信頼性が高まり、より多くの生徒を集めることができる可能性があります。一方で、基準を満たすための改善にはコストがかかり、学校にとっては負担となる面もあります。
この制度の導入により全体的な教育の質が向上し、多様な目的を持つ外国人が日本社会で自立した生活を送る支えになるよう期待されています。
文部科学省のQ&Aから制度の詳細に迫る
この「認定日本語教育機関制度」の背景や対象について、文部科学省がQ&Aを公開しています。そのうちのいくつかを抜粋しましたので、ご確認ください。
Q:日本語教育機関認定法が制定された背景
A:在留外国人が増加傾向にある中で、日本語教育について、教育の質の確保のための仕組みが不十分であることや、専門性を有する日本語教師の質的・量的確保が不十分といった課題が指摘されています。これを受けて、本法律は、日本語教育機関を認定する制度を創設し、また、認定日本語教育機関で日本語を指導することができる登録日本語教員の資格制度を設けるものです。こうした仕組みを通じて、日本語を学ぶ外国人それぞれが必要とする日本語能力が身に付けられるよう、教育の質の確保を図ることとしています。
Q:認定されるとどうなりますか。
A:認定基準等を満たす日本語教育機関は、一定の質が担保されたものとして文部科学大臣が認定するとともに、文部科学省の情報サイトにおいて多言語で情報発信し、また、文部科学大臣が定める表示を広告等に付すことができるようになります。これにより、これまで様々な主体により、様々な形態で実施されてきた日本語教育機関について、外国人本人や企業等が選択するに当たって、正確かつ必要な情報を得られることとなります。また、各教育機関から提供される日本語教育の水準を正確に確認することが可能となり、一定の質が担保され、かつ学習者の状況に合った適切な日本語教育機関を選択することが可能となります。
Q:本制度の認定はどのような日本語教育機関を対象としているのですか。
A:本制度では、留学生を受け入れて日本語教育を行う「留学」、 就労者に対して日本語教育を行う「就労」、生活者に対して日本語教育を行う「生活」の3つの分野別に日本語教育課程を審査し、これらの日本語教育を実施している機関を認定することとしています。
Q:新たな制度ができて、法務省告示機関制度の何が変わるのですか。
A:法務省令を改正し、認定日本語教育機関であることを、在留資格「留学」による生徒の受け入れを認める要件とします。
Q:法務省告示機関はいつまでに認定を取る必要があるのですか。
A:法施行後、5年間は、現行の法務省告示機関も留学生の受け入れができるよう、経過措置が設けられる予定です。この期間を超えて引き続き在留資格「留学」により生徒を受け入れる場合は、令和10年度末までに文部科学大臣の認定を受けて体制を整える必要があります。
日本語教師の国家資格化 – 登録日本語教員とは?
続いて、今回制定された「認定日本語教育機関制度」に含まれる「登録日本語教員」の資格について見てみましょう。現役の日本語教師にどのような影響を与えるのでしょうか?
「登録日本語教員」は、日本語教師の質を向上させるために新たに導入される国家資格です。令和4年5月に開催された「日本語教育の質の維持向上の仕組みに関する有識者会議」で提言され、文化庁が認定する「認定日本語教育機関」で働く場合には必須となります。この資格は、日本語教育機関および日本語教師の質を確保し、向上させることを目的としています。
認定日本語教育機関で教える全ての日本語教師は、「登録日本語教員」の資格を取得する必要があります。文化庁の資料には、「認定日本語教育機関において日本語教育を担当する者は、登録日本語教員であるものとする」と明記されています。これにより、認定機関で働く教師の質が一定水準以上であることが保証されます。
一方で、「認定日本語教育機関」以外で日本語教師として働く場合には、この資格は不要です。例えば、オンラインで日本語を教える人や、海外の日本語学校で働いている人は、現行通りの資格で引き続き就業することができます。
日本語教師として働いている人やこれから働こうと思っている人は、資格取得が必要な場合と不要な場合をしっかりと理解し、自身のキャリアに応じて適切な対応をすることが重要です。
登録日本語教員になるには?- いつまでに取得する必要がある?
登録日本語教員の資格取得には、主に「養成機関ルート」と「試験ルート」の2つの方法があります。
養成機関ルート
養成機関ルートでは、基礎試験が免除され、応用試験と実践研修が必要です。登録日本語教員養成機関で日本語教師養成講座を受講する場合、実践研修は養成課程と一体的に行われます。
試験ルート
独学で資格を目指す場合は、基礎試験を受け、合格後に応用試験を受験し、その後に実践研修を履修する必要があります。実践研修は指定された日本語教育機関での教育実習を含みます。
経過措置
2023年12月に文化庁が公表した資料によると、現職の日本語教師や現行制度の資格所有者に対しては経過措置が設けられています。自分がどの対象に該当するかを確認し、適切な手続きを行うことが重要です。
- 無資格の現役日本語教師
- 実践研修は免除され、筆記試験①と②の合格が必要です。講習の受講は不要です。
- 民間試験合格者
- 実践研修と筆記試験が免除され、講習を受講し修了認定試験に合格する必要があります。
- 養成課程修了者
- 養成課程が必須50項目に対応している場合、実践研修と筆記試験①が免除されます。対応していない場合は、講習の受講と修了認定試験の合格が必要です。
認定機関の公表
2024年3月29日に文化庁は「必須の教育内容50項目に対応した日本語教員養成課程等」として認定した機関を公表しました。この養成課程を修了すると、基礎試験と実践研修が免除されます。
国家資格化は解決になる?- 日本語教師不足の原因を考える
日本語教師の不足は、離職率の高さに起因しています。求人サイトに日本語教師の求人が通年掲載され、離職率は30%に達するとされています。以下に主な原因を紹介します。
【1】給料の低さ
日本語教師の退職理由のトップは給料の低さです。日本語教師の平均年収は300万円以下で、非常勤講師の1コマあたりの給料は約2,000円です。授業準備に多くの時間がかかるため、労働時間に対して収入が低いと感じる人が多いようです。非常勤講師は週に何日働けるかで収入が変わり不安定であることや常勤講師は授業以外の業務も多いことも退職が進む理由として考えられます。
【2】日本語需要の不確実性
日本語教師は主に日本に来る外国人を対象としていますが、新型コロナウイルスの影響で国境が閉ざされ、日本語学校の需要が減少しました。海外での日本語需要も日本文化のファンが一定数いるものの、海外での日本語需要も今後の見通しが不透明です。このため、安定した職業への転職を考える人が増えています。
認定日本語教育機関制度が日本語教師に与える影響 – まとめ
今回の記事では、新たに制定された認定日本語教育機関制度が日本語教師に与える影響について考えました。認定日本語教育機関で教える日本語教師は「登録日本語教員」の資格を取得する必要があるため、現役の日本語の先生たちはこれに対応する必要があります。
一方、多くの日本語教育機関側は、教師不足に頭を悩ませています。日本語教師の国家資格化が日本語教師不足の解決になるかは不明ですが、給料や労働環境の改善は必要不可欠だと言えるでしょう。国家資格化で日本語教師の質が向上し、職業としての魅力が増すことを期待する声もありますが、それだけでは問題は解決しない可能性もあります。
グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。