ベトナムにおける日本語学習の理由と推移:経済成長とともに拡大
ベトナムにおける日本語教育は、近年急速に発展しています。特に、日本語を学ぶ動機や学習者の推移は注目されています。ベトナム人の日本語学習者は、仕事や就職、日本留学、趣味、日本文化の理解などさまざまな目的で日本語を学んでいます。この中で最も多いのが「仕事や就職の関係」であり、日本企業や日本での就職との関わりが深いことがうかがえます。
ベトナムと日本の経済関係が緊密化する中、ベトナムには日本商工会議所があり、多くの日本企業が進出しています。実際、2018年には日本からの投資額が83億4,305万ドルと、外国からの投資額で1位となり、ハノイやホーチミンなどの都市部を中心に、日本企業の数も増加しています。この経済的背景から、ベトナムでの日本語教育はさらに重要性を増しています。
さらに、在留ベトナム人の数も増加しており、技能実習生や高度人材として日本での活躍が目立ちます。技能実習生の数は特に多く、日本での就労機会が広がっています。このような背景から、ベトナムでの日本語教育はさらなる発展が期待されています。
ベトナムにおける日本語教育の歴史と発展
それでは、ベトナムにおける日本語教育は、いつ頃どのように始まったのでしょうか?その歴史を紐解いてみましょう。
日本語教育の初期段階
ベトナムにおける日本語教育の歴史は、インドシナ半島に日本軍が入る前の1940年代から始まりました。当時、日本と取引を行うエリートや華僑、フランス人などが日本語を学ぶニーズがあり、小規模な日本語教育が施されました。しかし、日本語は外交官や政府関係者が使用する程度であり、一般的ではありませんでした。
1973年に日越国交が樹立されるまで、日本語はベトナムではあまり馴染みのない言語でした。70年代後半から80年代にかけて、ホーチミン市やハノイなどで民間の日本語学校が次々と設立されましたが、学習者数の増加は緩やかでした。
日本語教育の定着期
1961年にハノイ貿易大学(旧名 貿易幹部短期大学)で日本語講座が開始され、高等教育機関での日本語導入の始まりとなりました。
1973年には日越国交が樹立され、ハノイ大学(旧名 ハノイ外国語大学)でも日本語教育が始まりました。しかし、日本語を学んでも仕事の機会は限られており、学習者も多くはありませんでした。
1986年にベトナムでドイモイ政策が導入され、外国との関係が活発化すると、1992年に日本の対ベトナム経済協力再開により、北部のハノイ国家大学外国語大学と南部のホーチミン市国家大学人文社会科学大学でも日本語教育が始まりました。
1993年のキエット首相の日本訪問以降は両国関係がさらに緊密となり、2007年には戦略的なパートナーシップに向けた共同声明を発表、2009年には日越経済連携協定(EPA)を締結して日本とベトナムの関係が発展しました。これに伴い、日本語ができる人材のニーズが拡大し、高度人材養成が急務となりました。通訳や翻訳者だけでなく、エンジニアや他分野の専門家も求められ、日本語教育機関の範囲が広がりました。
日本語教育のブーム期
2003年に日越両政府の合意により、中等教育機関において日本語が課外授業として導入され、2005年には正規科目の第1外国語としての試行が始まりました。その後、2007年に日本語は中等教育で教えられる5つの正式な外国語の一つとなり、2008年には高校卒業試験及び大学入試の受験科目となりました。
ベトナム政府は国民の外国語能力を引き上げるために「2008~2020年期国家教育システムにおける外国語教育・学習プロジェクト」(通称2020プロジェクト)を実施し、2016年9月には日本語教育を小学校3年生から導入しました。小学校の日本語教師研修も行われ、10年間の学習でN3相当の能力が身につくとされています。
ベトナム進出企業の増加や技能実習制度・EPAなど、日本企業で受け入れる人材の育成ニーズも増加しており、両国の関係の深化により日本語学習・日本文化研究への意欲が高まりました。国際交流基金の2015年の調査によると、ベトナム全土には219か所の日本語教育機関があり、学習者数は約64,863人に上り、世界7位となっています。また、ベトナムから日本への留学生数も世界で第2位となり、東南アジアで第1位となっています。
現在ではベトナム全土に日本語教育機関が広がり、多くの人が日本語を学んでいます。日本語能力試験(JLPT)の受験者数も増加し、日本語学習は一般に普及したと言えるかもしれません。
ベトナムにおける日本語教育の現状と問題点
続いては、ベトナムにおける日本語教育の現状と問題点を分析してみましょう。
ベトナムにおける日本語教育の現状
日本語教育の近年の動向として、日越の大学間連携教育事業が多く存在しています。例えば、ハノイ国家大学外国語大学の佐賀大学とのツイニングプログラムや、貿易大学ハノイ校の青森中央学院大学との1.5+3プログラムなどがあります。さらに、ハノイ工科大学やホーチミン市工科大学、ハノイ法科大学、ホーチミン市法科大学など、従来日本語教育を行っていなかった大学でも日本の大学との連携教育事業が行われています。
また、技能人材養成においても看護師・介護福祉士候補の養成が重要視されています。2009年の日本・ベトナム経済連携協定発効後、2014年からベトナム人看護師・介護福祉士候補者の受け入れが始まり、2018年8月31日には第5期生219人が渡日しました。看護師国家試験や介護福祉士国家試験の合格率も高く、ベトナム政府の日本語教育重視が一因とされています。
さらに、各大学や教育機関では日本語教育に関するセミナーやシンポジウムが行われ、2015年からは南部で東南アジア日本語教育シンポジウムが開催され、ベトナム含む東南アジアの日本語教育の統一性が見えてきています。
ベトナムにおける日本語教育の問題点
ベトナムにおける日本語教育は、急速な発展を遂げていますが、いくつかの課題が浮き彫りになっています。まず、教師不足が大きな問題です。学習者数が増加している一方で、日本語教師の伸び悩んでいます。特に高等教育機関では一人の教員が年間270コマ~350コマ程度の授業を担当するのが一般的ですが、実際には1000コマ以上持つ教師も珍しくありません。教師不足の原因として、給料の差や教師確保の対策不足、日本留学経験者の採用がうまく活用できていないことなどが挙げられます。
さらに、民間日本語学校の教師の質も問題として指摘されています。技能実習生の増加に伴い日本語学校が増加しているものの、教師の確保が難しく、一部は技能実習生がベトナムに戻った際に日本語教師として派遣されるため、質の保証が難しい状況です。
また、教育のアーティキュレーションの欠如も問題視されています。2005年から日本語が中等教育、2016年からは初等教育にも導入されましたが、教育の接続が不十分であり、中等教育と高等教育のカリキュラムの繋がりがうまく機能していません。これにより、大学に進学した際に再び日本語を学ばなければならない学生が多く、モチベーションの低下につながっている可能性が考えられます。
こうした課題を解決するためには、教師の質の向上や教育機関間の連携強化が必要です。特に、日本語教育の統一性を図るために、各大学や教育機関が連携し、教育の質を向上させる取り組みが求められています。
ベトナムで取り入れられる『日本式教育』とは?
日本『式』教育は、日本の教育制度やカリキュラムを基にした教育方法であり、日本のマナーや道徳心、自立心を重視しています。ベトナムでは、日本語教育だけでなく、これらの要素を取り入れた日本式教育の需要が高まっています。特に、ハノイにある日本国際学校(JIS)は、その代表的な存在です。
JISは、幼稚園から高校2年生までの学校で、生徒のほぼ全員がベトナム人です。学校では、日本の学習指導要領に基づいたカリキュラムを提供し、日本語能力試験(JLPT)のN1取得を目指しています。日本の教科書を使って算数や技能教科も学び、日本語だけでなく日本の文化や社会を理解することも重視されています。
また、JISでは日本式の道徳の授業があり、マナーや自立心、道徳心を養うことも重要視されています。これらの授業を通じて、学生が社会で活躍するための基盤を築くことが目標とされています。JIS出身者は、将来的に日本の大学進学を希望する学生が多く、JISは複数の日本の大学と提携し、留学のサポートも行っています。
ベトナムにおける日本式教育の需要は高まりつつあり、日本の教育や文化に興味を持つ人々にとって、貴重な教育機会となっています。
ベトナムの日本語教育の現状と課題 – まとめ
今回の記事では、ベトナムにおける日本語教育の歴史と現状について見ることができました。1990年代から急速に発展してきたベトナムでの日本語教育ですが、教師不足や質の問題など、解決すべき課題も残っています。
また、日本式教育を取り入れるなど日本との関係を深めているベトナムにおいて、より質の高い日越人材交流を行うため、政府や民間の努力も求められることでしょう。
グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。