在留資格申請を成功に導く「雇用理由書」とは?
せっかく内定を出したのに、在留資格申請で不許可になった・・・そのような経験はありませんか?
書類審査や筆記試験、面接など時間をかけて最良の人材を選抜し、求職者も入社の意志を示してくれ、双方にとって幸せな合意がとれたにもかかわらず、在留資格申請で不許可になったためにご破算となる・・・最悪の結果ですね。
しかし、この悪夢のシナリオは毎年10~20%の留学生採用で発生しており、割と身近なものなのです。
一般的に、学士以上の学位または高度専門士の称号を持つ留学生の「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更申請は比較的許可が下りやすい傾向にありますが、それが専門士となると在留資格申請の難易度は途端に上がります。
弊社にも「行政書士の方に在留資格変更は無理だと言われた。」「申請したが不許可になった。」という相談が数多く寄せられており、専門士の「技術・人文知識・国際業務」への在留資格申請の難しさが伺えます。これは、ざっくりいうと勉強したことと入社後に行う業務とに密接な関係性がないと許可が下りないためです。
在留資格申請がうまくいくかどうかは、いくつもの要因が絡んでいるので、「これさえ注意すれば大丈夫!」と断言することはできません。但し、非常に重要な書類として「雇用理由書」が挙げられることは間違いありません。
この「雇用理由書」を書くにあたり、いくつかのコツを押さえておくと、在留資格変更の成功率は格段にアップします。なぜなら、上述した「勉強したことと入社後に行う業務とに密接な関係性がある」ことを説明するのが「雇用理由書」だからです。
今回は、いくつかの具体例を交えながら「雇用理由書」の書き方をご紹介したいと思います。
なお、当記事は、専門士の称号で在留資格「留学」から「技術・人文知識・国際業務」への変更申請をとりあげます。また、おおまかなイメージをわかりやすく伝えるため、各種法令の規定を細かく説明することはしません。
そのため、個別具体的な申請については当てはまらない場合もありますので、あくまでざっくりとした理解を得るための参考にとどめ、実際の申請においては専門家に相談するなどしてください。
「雇用理由書」作成のポイントは?
「雇用理由書」とは、外国人を雇用する企業が出入国在留管理庁に提出する書類です。
全部で30以上ある在留資格のうち「技術・人文知識・国際業務」の許可をもらうための申請要件(車の運転免許でいうと「18歳以上である」や「視力が0.7以上である」など)を満たした上で、当該外国人を雇用したい積極的な理由を述べることで提出書類を補足し、当該外国人の雇用の必要性を訴えることができる補助書類のひとつと考えてください。
この積極的な理由というのがポイントです。
実は、求められた資料を最低限揃えて提出するだけでは不十分であり、雇用理由書によって「この人の雇用は会社にとって重要であり、不可欠なのです!」と伝えなければなりません。
ある行政書士の方は、「刑事裁判で無実を証明するかのように、こちら側が入管に納得してもらうための資料を整え、説明を尽くさなければならない。」と話しています。
では、実際に中身を見ていきましょう。以下は「雇用理由書」に記載すべき項目例です。
- 会社概要(設立年月日・資本金・業種・遍歴等)
- 申請人(外国人)の所属と担当する業務内容
- 申請人の学歴と業務内容との関連性
- 申請人の概要(人柄や業務への意欲等)
今回の記事では、この中でも特に注意すべき「所属と担当する業務内容」と「学歴と業務内容の関連性」の項目について解説していきます。
所属と担当する業務内容についてのチェックポイント
「雇用理由書」では、入社後に任せる仕事が専門的な知識や技術が必要な業務であることを証明する必要があります。「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では単純作業をすることが認められておらず、業務内容が単純労働と判断された場合は不許可となってしまいます。
では、単純労働とはどのような業務でしょうか?実に不便なことに、出入国在留管理庁では明確な規定を設けていないため、何が単純労働なのかは、過去の事例から推測するしかできません。ただ、弊社では次のような独自の基準をもって単純化して判断しています。
上記に該当するなら単純労働、該当しないなら専門的な業務だと大まかに分類しています。
例えば、「この顧客情報をExcelに入力して」という業務なら、ほとんどの高校生が簡単な説明だけで対応できるので単純労働です。丁寧な接客が求められる販売業務も、ある程度研修をすれば高校生にもできるので単純労働です。一見専門的に思える製造分野においても、ボタンを押すだけとか、手順通りに組み立てるだけなら、マニュアルを見れば高校生にもできますので単純労働です。
一方、通訳や翻訳は、対象となる2つ以上の言語を専門に勉強している人でないとできないので単純労働ではありません。顧客情報をExcelに入力するだけでなく、データベースとして構築して、アプリケーション等で使用できるようにするなら専門的な知識が必要ですし、接客のマニュアルを作って教える側の業務は簡単な研修と実践だけではできませんし、機械操作にプログラミングや設計が加わるなら平均的な高校生にはできないでしょう。
そのため、単純労働ではないと積極的に説明できる余地があります。
次に所属についてですが、部署が存在しないと正規雇用するだけの業務量がないとみなされ、不許可になり得ます。業務内容だけに気を取られるのではなく、所属部署も意識しましょう。
学歴と業務内容の関連性についてのチェックポイント
続いて「雇用理由書」では、上述した専門的な業務を行うだけの能力や知識を採用予定の外国人が持っていることを証明する必要があります。
そして、専門士の称号で申請する場合は、専門学校の卒業証書の他に成績証明書とシラバス(授業内容を詳細に説明したもの)の提出が重要です。
専門学校のITコースを卒業しているからIT企業就職にて在留資格申請が許可される、と直ちに認められるわけではなく、そのITコースで何を勉強し、何ができるようになったのかを業務内容と関連付けて説明しなければなりません。この役割を成績証明書とシラバスが担うのです。
例えば、業務内容が「経理」で、成績証明書の科目名が「簿記」で、シラバス記載の科目説明に「勘定科目や摘要など経理に必要な基本概念を学習し、仕訳や振替伝票・総勘定元帳等の作成について学ぶ。」などと書いてあったら以下のような書き方が可能です。
といった具合に雇用理由書を作成します。
注意点としては、業務内容、成績証明書の科目名、シラバス記載の科目説明との関連性を十分に説明できたとしても、該当する科目の成績が悪いと不許可になり得ます。関連性は認められるけれども、成績が悪いということは十分に習得していないということであり、専門性を有しているとは言えないということです。
また、関連性が認められて、成績が良かったとしても、全体の学習時間(1700時間程度)に占める該当科目の学習時間が短いと専門性が不十分と判断される可能性があります。成績についても、学習時間についても明確な基準はなく、過去の許可・不許可事例から推測するしかありません。
在留資格申請のノウハウは、外国人採用において必須
せっかく一緒に働きたいと思う外国人材に出会えたのに、在留資格変更の不許可で取り消しになってしまうのは本当にもったいないことです。
そして、それを防ぐ最良の手は、採用する企業にて在留資格申請の実践的な知識を蓄えることです。在留資格は複雑怪奇に見えますが、要点をおさえてしまえば問題なく対処できます。「雇用理由書」もその一つです。
その実態が分かりづらいため、つい出入国在留管理庁を責めたくなるかもしれませんが、同庁は日本社会の治安維持等のため、どうしても審査を厳格にせざるを得ません。異文化が前向きに交わるためには寛容性やおおらかさが大切ですが、その礎には法や規則といった確かな秩序が必要なのです。
出入国在留管理庁と敵対するのではなく、正しくポイントを押さえた申請をすることで、働く人も、雇う人も、社会全体も幸せになるような人材の多様化を進めましょう。
高度外国人材に特化した人材コンサルタント。人材探索から在留資格申請、入社後の日本語教育、ダイバーシティ研修等、求人企業の要望にあわせた幅広いサービスを提供する。また留学生専門キャリアアドバイザーとして東京外国語大学、横浜国立大学、立教大学、創価大学等で外国人留学生の就職支援を行い、80カ国・500名以上の就職相談を受ける。内閣官房、内閣府、法務省等の行政および全国の自治体における発表や講演実績も豊富。