外国人雇用、実際はどうなのか?
「外国人を雇用したいけれど、言葉の壁、文化の違い、色々大変そう・・・」と思ったことはありませんか?実際、数多く実施されている外国人雇用に関するアンケートでもこれらの項目は主な問題点として取り上げられています。
ただ、その詳細については触れられておらず、具体的にどのような問題が現場で生じるのかはイメージしづらい部分もあるので、今回は「外国人採用の問題点の実態」について話していきたいと思います。
言語によるコミュニケーションの壁
日本語が話せる外国人材でも、その奥に隠れた細かなニュアンスや意図までは理解できないことが多々あります。例えばこんなシーン。気づきを与える目的で直接的には言わず、注意をうながす指導を上司のAさんがしています。
フランくん、ほら。先輩の小林さんがたくさん書類運んでいるよ。
おそらく、多くの日本人であれば先輩の書類運びを手伝うよう促されているとわかるでしょう。しかし、この表現でそうであると気づける外国人は少ないです。この意図を正しく理解するには、高い日本語力ではなく”先輩後輩”という日本社会で広く見られる人間関係について知っていなければならないためです。
悲劇なのは、こういった場面が発生した時に「こんな日本語もわからないのか」や「気の利かない奴だ」といったマイナス評価につながり、外国人材はやっぱり話が通じないと拙速に判断されてしまうことです。
また、こんな問題もあります。発音や使用する語彙・表現、敬語に至るまでかなり上手に使いこなす人でも、読み書きは難しいことがあります。
例えば、契約事項の説明。巧みな会話術でお客様の関心を得て、さぁ契約の話をしようとなったときに問題が発生します。細かな文字でびっしりと書かれた内容を読み上げたり、質問されたことに対して条文を引用しながら回答したりするというのは困難を極めます。かといって、契約事項の説明をすっ飛ばすこともできません。契約のときにだけ日本人スタッフにかわったり、タブレットで契約担当者につないだりというオペレーション上の工夫で対応している会社もありますが、結構な手間暇がかかることは間違いありません。
日本人が共通して持っているニュアンスの理解や、完璧な読み書きのスキルを併せ持った外国人を採用できると理想的ですが、現実にはなかなか難しいでしょう。よく外国人採用のときに基準として用いられる日本語能力試験を例に挙げれば、N1(最も高いレベル)を持っていても日本語能力試験の勉強で得られる日本語力と職場で求められる日本語力は違うため、これだけでは業務を遂行できるかどうか正しい判断はできません。過去に投稿した記事で詳細を取り上げていますので、是非ご覧ください。
仕事における日本語能力試験N1の実力
文化の違いの壁がある
「当たり前に伝わるだろう」と思っていたことが、外国人社員には伝わっていなかったということは、よくあることです。欧米に代表される我々日本人が真っ先に思い浮かべる”海外”の多くの国では、異文化間の摩擦が当然なので、トラブル回避の方策として曖昧性を排除するというのが身についています。はっきり「これは◯日までに◯ページまで終わらせてください。」等と具体的に業務の指示を出すのがほとんどであり、声色や表情、雰囲気などで相手に”察してもらう”ことは多くありません。
この違いは、こんなシーンで現場のトラブルを発生させます。営業課長の山田さんは、最近入ってきたルイーザさんに営業資料の作成をお願いしました。
これ、今日必要だからお昼までにお願い。
上意下達の文化が馴染んでいる日本企業によく見られる業務指示です。詳細はよくわからないけれど、とりあえず資料作成を始めたルイーザさんの資料にケチがつけられるであろうことは想像にかたくありません。
日本では、わからないことは指示を受けた側が常に確認すべきであり、ホウレンソウの重要性はいつでも上司が部下に説き、上司が部下にホウレンソウの責務を負うことはあまりありません。それは何のための資料で、何時までに、何を仕上げて提出すればいいのか全く伝わらない指示が放置されているのは、上下関係が厳しく、下の者が上の者に意見することは好ましくないとされているからでしょう。ただ、このような職場は外国人材に相当なストレスを与えているおそれが高く、離職理由にもつながります。
このような状態を見事に表現した言葉があります。私も気に入っているので、ことあるごとに引用しています。
上司がfuzzyだと部下はbuzyになる・・・
別のケースでは、海外では家族と過ごす時間などプライベートを重視する文化が多く、残業への考え方も日本人とは大きく異なります。そもそも海外では定時終わりが基本であり、残業を当然に受け入れる考え方はないため、「業務時間内に終わらなかった仕事は、次の日に終わらせよう」と考えます。自己成長や自己実現、経済的基盤構築の機会として仕事を利用することはあっても、仕事に人生を捧げることはまずしないです。このあたり、社員に等しくメンバーシップの意識を求める日本企業の文化とは馴染まないところがあります。残業が多かったり、時間は短くともサービス残業があったりすると、これもまた離職の原因になってしまいます。
在留資格など手続き上の壁がある
外国人を採用するにあたり、在留資格を申請するためには、出入国在留管理庁が指定した資料を会社及び就労予定の外国人双方が用意し、提出する必要があります。この手続きは一見すると複雑で、行政書士等に申請業務を委託する企業も少なくありません。日本人採用とは異なるコストが発生することは、外国人採用のデメリットとも言えるでしょう。
また、既に就労ビザを取得している外国人でも、転職者として直ちに採用できるわけではなく、様々な制約が存在しています。それらを調べて正しく運用する手間も余計なコストとなります。
特に、新卒で専門学校生を採用しようとしている企業は要注意です。基本的に、在留資格「留学」から「技術・人文知識・国際業務」などの”就労ビザ”に切り替えて働いてもらうこととなりますが、入社後の仕事内容と専門学校で勉強した内容とが直接かつ密接に関係していないと就労許可がおりません。このあたりの難しさと打開策は、別の記事で取り上げているので、そちらをご覧ください。
専門学校に通う留学生の在留資格「技術・人文知識・国際業務」変更申請、成功の鍵は雇用理由書にあり
諦めるのはまだ早い
「外国人採用は問題多そうだし、諦めようかな。」と思った方、ちょっと待ってください。これらの外国人採用の問題は、解決方法をあらかじめ心得ておくことで打開できます。
実際、外国人採用に早くから取り組み、痛みを伴いながらも前進し続けた結果、現在は有望な人材を毎年安定的に採用できている会社がたくさんあります。難しさがある反面、まだ外国人採用は競争率が低く、慣れてしまえば労せず優秀な人材を獲得できます。
外国人採用によるメリットや成功事例については、過去の記事で紹介していますので、ぜひそちらの記事も併せてお読みください。
高度外国人材に特化した人材コンサルタント。人材探索から在留資格申請、入社後の日本語教育、ダイバーシティ研修等、求人企業の要望にあわせた幅広いサービスを提供する。また留学生専門キャリアアドバイザーとして東京外国語大学、横浜国立大学、立教大学、創価大学等で外国人留学生の就職支援を行い、80カ国・500名以上の就職相談を受ける。内閣官房、内閣府、法務省等の行政および全国の自治体における発表や講演実績も豊富。