外国人との会話をするには同じ言語さえ使っていればお互いの言いたいことは通じ合えると思っていませんか?果たして、本当にそうでしょうか?
逆に、外国人と英語で会話できているのに、なんだか話が盛り上がらない、あるいはたまにミスコミュニケーションがあるみたいな経験をしたことはありませんか?
今回は、日本へ訪れた外国人旅行者を案内するガイドとして、これまで多くの外国人の方々と接する中で気付いた異文化コミュニケーションの秘訣について、過去の経験を元にお伝えしたいと思います。
日本語の特異性
異文化コミュニケーションについてお伝えする前に、我々が当たり前のように使っている日本語の特異性について少し共有しておきたいと思います。
当然のことながら、日本語は日本の母国語であり日本人が母語として話す言語です。日本以外に日本語を母語としている国はありませんし、もちろん日本語が日常会話で通用する国も他にはありません。
その点をふまえると日本語というのは特殊な言語であり、それだけ日本で生まれ育たないと日本語の習得はなかなかに難しいといえるでしょう。その特異性は、単にネイティブ話者が限定されているという意味だけではなく、日本の地理的条件からも垣間見ることができます。
というのも、日本語は実際に口に出して交わされる情報以外に、行間を読んだり前後の文脈から推測したりすることで多くの情報をやりとりしています。それは、島国という限られた国土で同じ文化圏を形成し住んでいる日本人の日本語ならではの特徴といえます。
逆にいえば、母語として使われている国が複数ある言語、例えば、英語やスペイン語は、同じ言語であっても国や地域が変わると、アクセントはもちろんのこと、細かなニュアンスや言い回しまで変わってきます。
というわけで、同じ言語を使うだけでは円滑なコミュニケーションが必ずしもできるとはいえないのです。そう考えると、たしかに日本で日本語のみを使って暮らしていると「同じ言語を使えば言いたいことは分かり合えるのでは?」と思ってしまうのも無理はないのかもしれません。
では、文化を越えてコミュニケーションが上手くするにはどんなことを意識すれば良いのか、そのあたりについてお伝えしたいと思います。
語学習得より異文化理解
外国人との会話になった時、まず最初に必要だと考えることはなんでしょうか。おそらく語学かと思います。たしかにお互いに理解できる言語を話せるかどうかは気になりますよね。仮にお互いに共通で話せる言語があって双方が流暢であれば、ある程度はコミュニケーションをスムーズに行えるでしょう。
ですが、グローバル化が加速する現代では一般的に習得可能な言語数以上に様々な国籍や地域の方と関わる可能性があります。また、共通言語がお互いにそれほど流暢ではないことも場合によっては出てくるかと思います。
そして、仮に互いに共通言語が流暢であったとしても、コミュニケーションが必ずしも上手くいくとは限りません。他言語スキルを身に付けることは素晴らしいことですし、扱えるようになれば役に立つ場面も多いはずです。
しかし、語学スキルもあくまでめもコミュニケーションを円滑に行う上での一つのスキルに過ぎません。もちろん語学の習得は大事です。ですが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に大事なのが異文化理解ではないでしょうか。
それでは、異文化理解とは具体的に何を意味するのでしょうか?
日本の常識=海外の非常識
我々日本人が日本で暮らす中で当たり前や常識としていることと外国人、例えば、アメリカで生活をされている方のそれらは当然ながら同じではありません。
異文化理解をするためには人の常識の違いを理解すると分かりやすいので、外国人が日本へ旅行に来たときの実際あったことを例えに挙げてご説明したいとおもいます。
事例①:自動販売機の赤と青
日本には自動販売機が街のいたるところにありますが、日本を訪れた外国人からみると自動販売機には驚きのことがいくつもあります。例えば、どこにでも存在するほど圧倒的な数や人気のない場所にあるのに誰も取っていかない安全性など。
驚くポイントはそれだけではありません。日本人にとって当たり前の自動販売機にある赤と青のラベル。ある外国人にとっては、赤は温かい飲み物、青は冷たい飲み物という常識は通用しません。そもそも、温かい飲み物が出てくる自動販売機など見たことがない彼らにはそれだけで驚きの発見なのです。
事例②:独りで電車に乗る小学生
東京の大都会を訪れた外国人が朝の山手線に乗った際にとある衝撃の光景を目にします。その光景とは小学生です。我々日本人からすると当たり前過ぎる光景ですが、外国人にとって小さな子供がたった独りで電車に乗っている光景は驚きと戸惑い、そしてもはや不安にすら感じるのです。なぜなら、例えばアメリカでは治安の観点から子供を学校へ車で送り迎えすることは当たり前なのです。
事例③:カフェで荷物を放置
カフェでパソコンや鞄を平然とイスに置いてトイレへ行くお客さん。そんなことをすれば、国や地域によっては一瞬で盗まれて無くなってしまいます。偏った見方をすれば、その光景は「どうぞ、私の荷物を取ってください」と言っているようなものなのです。
事例④:電車乗降時の暗黙の了解
電車に乗る際のホームで自然とドアの両脇に列を作って並び、降りる人を待ってから乗る乗客。人の多さにまず驚くようですが、そんなカオスな状況なのに誰も言葉を発さず、まさに阿吽の呼吸の行動に「みんなお利口さんですね」と感じているようです。
事例⑤:ゴミのない綺麗な街並み
街の道にゴミ箱が無いのに街にゴミがほとんど落ちていないのはナゼなのか?シンガポールのようにポイ捨てすると罰金があるわけではないのにそれが可能なのか?
もちろん良い例ばかりではなく、どちらかというとマイナスなイメージを持たれている日本の日常もあります。
事例⑥:麺をすするのは下品
日本の食文化は特殊です。「ズズォー」日本人には聞き慣れたラーメン屋や蕎麦屋さんなどの麺料理のお店に行くと聞こえてくる麺をすする音。音を立てて物を食べる習慣がない外国人にとっては違和感であり、不快に感じる人も少なくありません。
事例⑦:ビニール袋の無駄遣い
現在は有料になって状況は変わりましたが、少し前まではコンビニで温かい物と冷たい物を一緒に購入すると、別々のビニール袋に入れられていました。これはかつての日本では気が利いたサービス。でも、外国人にとってはただの無駄遣い。これも当たり前の違いです。
このように実例を挙げ出すとキリがありませんが、どの事例も育ってきた環境や文化で形成された常識や当たり前の違いです。
これらの違いはどちらかが正しくてどちらかが間違っているということではありません。
お互いの価値観を否定せず、理解しようとするマインド、すなわち異文化理解が大切だということです。
同じ言語でも生じるミスコミュニケーション
ここまでは、日本の常識に対して外国人の常識という視点でお話をしましたが、外国人という大枠をもう少しかみ砕いてみようと思います。前半でも少し触れましたが、ミスコミュニケーションは同じ英語圏の外国人旅行者同士の会話からも見受けられます。
※ここに書かれている内容は、あくまでも個人的な経験を元にした印象ですので、特定の国籍への差別的な意図は一切ありませんので、その点ご理解ください。
例えば、アメリカ、イギリス、オーストラリアからの日本へ来た旅行客がいます。アメリカ人はどちらかというと、払ったツアー代に対してシビアで、含まれる内容がその対価に見合っているかどうかを気にされる印象です。イギリスの方は物事に対しての感想を皮肉っぽくいう傾向があります。オーストラリア人は物事が計画通りにいかなくても楽しければオーケーという考え方をする人が多いように感じます。
ですので、同じ一つの事柄に対して示す反応は同じ英語という言語を用いても違っていて、アメリカ人のシビアな物言いに対してオーストラリア人「なんでそんな細かいこと気にするの?」と思ったり、イギリス人の皮肉を真に受けるアメリカ人やオーストラリア人のいい加減さを皮肉るイギリス人がいたりします。
外国に住む経験
異文化を理解するのに一番手っ取り早い方法は、外国に住むことです。自分自身が外国に住むことで、外国人が日本を訪れた際に感じる感覚と限りなく近い経験することができるからです。
我々は無意識的に日常生活で培った常識というフィルターを通して社会を見ています。海外に出て異文化に触れると「日本では〇〇が普通なのにこっちではこうなんだ」と違いに気付くと思います。そして、住むということは、それを感じて終わりではなくその違いを理解し受け入れる努力をするはずです。その経験こそ、異文化理解の大きな一歩だと思います。
では、外国に住まないと異文化理解ではできないのでしょうか。もちろんそんなことはありません。今は日本にいても外国人と接する機会はたくさんあります。
また、異文化コミュニケーション術は外国人と接するときだけに必要なわけでもありません。日本人と日本語で会話する際でも、育った環境や住んでいる地域が違えば、お互いに持っている当たり前や常識が違うことはよくあるはずです。
まとめ
大切なのは、コミュニケーションを取る際は、いつもでもどんな相手でも、その方がどんな当たり前や常識を持っているのかを少しでも考えながらコミュニケーションを取ってみることです。 そうです、異文化コミュニケーションはそんな簡単なことです。
それができればきっとあなたはもう自然と異文化コミュニケーションができています。
茨城県出身。高校と大学をオセアニアの現地校で卒業。国内でIT企業とアウトドアベンチャーでの就労を経験の後独立。フリーランスとしてインバウンド向けの観光通訳者として活動。年間約200日を外国人旅行客(主に欧米豪)を日本各地へエスコート(コロナ前)。都市部観光(20都市以上)から自然アクティビティツアーまで幅広く対応。ガイドの傍らウェブでの執筆やツアー造成等にも挑戦中。