技能実習実施者の労働基準関係法令違反|外国人技能実習生を取り巻く問題とは?

この記事は約5分で読めます。

技能実習生や外国人労働者を取り巻く問題が、国会やニュース番組で取り上げられ始めて早数年が経ちました。コロナ禍による景気の減退や入国制限の時期を経て、彼らを取り巻く環境はどのようになっているのでしょうか?

この記事では、全国の労働局や労働基準監督署が、外国人技能実習生の実習実施者(技能実習生が在籍している事業場)に対して行った監督指導や送検等の状況について、厚生労働省が取りまとめた資料を紐解きながら見ていきましょう。

この取りまとめは令和3年を対象としており、令和4年7月27日に公表されました。

労働基準関係法令違反が認められた実習実施者は、全体の72.6%

今回の取りまとめでは、「全国の労働基準監督機関において、労働基準関係法令違反が疑われる実習実施者に対して9,036件の監督指導を実施し、その72.6%に当たる6,556件で同法令違反が認められた」と公表されています。

法令違反が認められた実習実施者の割合は、

平成29年 70.8%
平成30年 70.4%
令和元年 71.9%
令和2年 70.8%

と推移していますので、微増と言えるでしょう。

また、監督指導実施事業場数は、

平成29年 5,966件
平成30年 7,334件
令和元年 9,455件
令和2年 8,124件

そして今回(令和3年)は9,036件となっています。

法令違反の疑いのある実施者やそれに対する監督指導も、コロナ禍で一時的に減少しているとはいえ、増加傾向にあると言えるでしょう。

それでは、こうした実施者にはどのような点で違反が認められたのでしょうか?主な違反事項を3つ見ていきましょう。

労働基準関係法令違反が認められた実習実施者の主な違反事項

主な違反事項の上位3つは、

  1. 使用する機械等の安全基準(労働安全衛生法第20条等)
  2. 割増賃金の支払(労働基準法第37条)
  3. 労働時間(労働基準法第32条)

でした。それぞれについて詳しく見ていきましょう。

使用する機械等の安全基準(24.4%)

労働基準関係法令違反が認められた事項のうち最も多かったのは、「使用する機械等の安全基準」でした。具体的には、以下のような事例が報告されています。

事例:
食品製造を行う事業場において、ベルトコンベヤーの回転部分に指が挟まれる労働災害が発生したため、立入調査を実施したところ、ベルトコンベヤーの掃除を行う際に機械の運転を停止していなかったことが認められた。

どのような機械かは明示されていませんが、場合によっては指や手に大きなけがを負う状態で掃除を行っていたのかもしれません。

技能実習生は工場や作業現場で就業(※)することが多いため、大けがや、時には命に係わる労災に巻き込まれることもあります。実際に中国人技能実習生が転落により死亡した事故や、ベトナム人技能実習生が指を切断した事故などが報告されています。
※技能実習は形式的には「実習」ですが、この記事では「就業」「雇用」という言葉を用います。

割増賃金の支払(16.0%)

労働基準関係法令違反が認められた事項のうち2番目に多かったのは、「割増賃金の支払」でした。具体的には、以下のような事例が報告されています。

事例:
空調設備設置工事を行う事業場において、外国人技能実習機構から割増賃金の一部が支払われていない旨の通報があったことから、立入調査を実施した。この結果、時間外労働に対する割増賃金が支払われていないことが認められたほか、書面による労使協定がないにもかかわらず、賃金から寮費を控除していたことが認められた。

日本人の一般的な就労者においても、残業代の不払いや、いわゆるサービス残業の問題があります。それ以上に、外国人労働者の場合は労働基準に関する法令やルールを知らなかったり、雇用主が違反していてもどこに通報すれば良いのかわからなかったりする場合があります。

実際、今回の取りまとめに記載されている、「技能実習生から労働基準監督署に対して労働基準関係法令違反の是正を求めてなされた申告」の件数は126件でした。126件全ての申告に「賃金・割増賃金の不払」が含まれています。

違反が疑われる実習実施者に対する監督指導9,036件に対して、技能実習生からの申告が126件(1.4%)というのは、技能実習生本人からの申告や通報がいかに難しいかを表しています。技能実習の管理団体や、特定技能の支援機関による実態的な監視が重要だと言えるでしょう。

労働時間(14.9%)

労働基準関係法令違反が認められた事項のうち3番目に多かったのは、「労働時間」でした。具体的には、以下のような事例が報告されています。

事例:
陸上貨物を取り扱う事業場において、外国人技能実習機構から違法な時間外労働等が疑われる旨の通報があったことから、立入調査を実施した。この結果、1か月100時間を超える違法な時間外労働が認められた。また、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、1年以内に5日間以上の年次有給休暇を時季を指定して取得させていないことが認められた。

更には、虚偽の時間外労働時間数等を賃金台帳に記入して送検された事例も報告されています。

この問題においても、一般的な日本人就業者との一番の違いは、申告や通報をどのように行えばいいかわからないということでしょう。悪質なケースでは、「通報したら強制帰国させる」と脅している場合もあるそうです。

技能実習実施者の労働基準関係法令違反|まとめ

今回は、厚生労働省が取りまとめた資料を基に、外国人技能実習生を取り巻く環境について考えました。本人たちが申告し難い状況や、場合によっては命に係わる労災に発展する問題もあることが理解できます。

労働環境改善の機運が高まる中、技能実習生の労働環境改善も見過ごされることが無いよう、関係機関による監視と監督が重要であると言えるでしょう。

グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。

タイトルとURLをコピーしました