グローバル人材に必要な言語能力と関係する3つの要素

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ビジネスのグローバル化に伴い、グローバル人材という言葉をよく聞くようになりました。

グローバル人材とは、簡単に言えば『言語、文化、価値観の違いを乗り越えて、海外の人々と円滑なビジネスコミュニケーションを図ることができ、最大限のパフォーマンスを発揮することのできる人材』と定義されます。クロスボーダービジネスを展開する中でキーとなる人材で、こうした人材の確保・育成に、各国の企業が力を注いでいます。

それでは、グローバル人材の要件は何でしょうか?

最初に頭に浮かぶ要件は「言語能力」かもしれません。今回は、グローバル人材に必要なこの「言語能力」とそれに関係する3つの要素を詳しく考えてみましょう。

グローバル人材に必要な言語能力

グローバルなビジネスの世界では英語が共通語です。それ故、グローバル人材に必要な「言語能力」は、「コミュニケーションが図れる英語能力」だと言えます。

しかし、グローバル人材を語るとき英語能力にあまりにも重きが置かれ、元来の目的である「コミュニケーションが図れる」ということが後回しになっていると感じています。

確かに、ネイティブに近い英語を話すことができれば、間違いなくコミュニケーションが図れます。しかし、英語がグローバル言語として使われている中、アクセントや正確な文法はそれほど問題ではありません。

様々に異なる英語のアクセント

アメリカ英語、イギリス英語、オーストラリア英語、シンガポール英語、インド英語、フィリピン英語等々、世界にはたくさんの英語があります。イギリス英語でさえも、いわゆるクイーンズイングリッシュ、コックニーイングリッシュ、ノーダンアクセント、スコティッシュと全く違うアクセントがあります。

ビジネススクールに通うためイギリスのマンチェスターに到着した日、私は昼食を摂るためにマクドナルドに入りました。その時、マクドナルドの店員に言われていることが、私は全く理解できませんでした。マクドナルドの接客ですから、聞きなれているはずのフレーズであるにも関わらずです。既に何年も英語を使用して仕事していたのですが、同じ英語でもこんなに違うのかと驚いたことを鮮明に覚えています。

スコットランドでは、アクセントはまた異なります。スコットランドに滞在していた時ですが、私がスコットランド人従業員と難なく会話をしているのを見た取引先のイギリス人が、「俺はイギリス人なのに、スコットランド人の言っていることがわからない。どうして日本人のお前がわかるのか」と言って妙に尊敬されたことを覚えています。スコットランドのアクセントは、同じ英語に聞こえないほど、一般的なイギリス英語と異なっているのです。

アジアの英語もまた異なります。アジアでビジネスをしている日本人が「イギリス英語やオーストラリア英語は上手すぎて言っていることがわからない。アジア人の話すフィリピン英語やシンガポール英語の方がわかりやすい」と言っているのをよく聞きました。

英語はあくまでコミュニケーションツールの一つ

長い海外生活の中で分かったことは、言語はあくまでもコミュニケーションのツールだということです。どんなに英語を学習したところで、10代で習い始めた人は母国語のように話すことはできません。しかし、意思の疎通のために必要なことは、言語の訛りや正確な文法ではなく、自分の言いたいことを相手に伝える、そして相手が伝えたいことを理解する能力です。

グローバル人材育成プログラムの一環として、英語を学ぶために英語圏に留学したり、企業から英語圏でのMBA取得のために派遣されたりすることがあります。ここで注力するべきことは、英語を学ぶということだけではありません。様々な文化的背景をもつ人々との交流を通して、英語によるコミュニケーション力を身に着けることが重要です。

最も重要な『コミュニケーション力』とは

それでは、ここで言うコミュニケーション力とは何でしょうか。

コミュニケーション力とは、対人間での意思疎通の力です。つまり自分の意思を間違いなく伝えた上で相手の意思を理解し、また意思の疎通を図る能力です。

更に、グローバル人材に必要なコミュニケーション力とは、異文化間の双方向での意思の疎通です。一方的に自分の言いたいことを伝えるだけではなく、相手の言っている内容とその意図まで理解しなければ、本当の意味での意思の疎通とはなりません。

英語によるコミュニケーションの中で、相手も英語を上手に話すのでコミュニケーションが図れていると思っていると、実は自分の言っていることが全く通じていないこともよくありました。つまり、英語は話せても、相手の言うことを聞いて理解することができない人も多くいるのです。このような場合、意思の疎通は難しくなります。

逆に、英語力が少し足りなくても、伝えようとする気持ち、そして相手を理解しようとする積極的な姿勢があれば、効果的なコミュニケーションを取ることができます。

日本のビジネスマンで、英語力はそれほど高くなくても、グローバルビジネスで成功してきた人は多くいます。英語力があるだけでは、グローバルビジネスに必要な言語力があるとは言いきれません。繰り返しになりますが、大切なのは英語を使うコミュニケーション力です。

次に異文化間のコミュニケーション(意思の疎通)に必要な文化的背景に対する理解、続いて論理的な思考プロセスについて考えてみたいと思います。

ハイコンテクスト文化とローコンテクスト文化を理解する

ハイコンテクスト文化(英: high-context culture)およびローコンテクスト文化(英: low-context culture)という言葉をご存じでしょうか?

コンテクストとは文脈・背景といった意味です。ハイコンテクスト文化は、「行間を読む・空気を読む」などのように「言葉で表現されていない部分」が重要になっている文化です。つまり、コミュニケーションにおいて文脈が大きな役割を占める社会です。コミュニケーションに際して、共有されている体験、感覚や価値観などが多く、「以心伝心」で意思伝達が行われる傾向が強い文化のことです。

一方、ローコンテクスト文化とは、各人がお互いに共有している知識、経験や価値観が少ないため、言葉で情報をしっかり伝え切ろうとする文化です。

ハイコンテクスト文化の典型は日本です。一方アメリカは、移民国家ゆえの多文化を背景としたローコンテクスト文化の典型です。

そのため、日本人がグローバルビジネスで活躍するためには、日本のハイコンテクスト文化の枠組みを超えていかなければなりません。情報をしっかりと言語化し、誰にでも確実に伝わる情報発信を身につけることが大切なのです。

先ずはその第一歩として、日本人同士のコミュニケーションで見られる「阿吽の呼吸」は通じないということを覚えておく必要があるでしょう。

論理的な思考プロセス

確実に伝わる情報発信の方法を考えるとき、伝え方だけでなく思考プロセスにも違いがあることを意識する必要があります。特に欧米人とのディスカッションでは、ロジカルな(論理的な)思考プロセスが必要です。日本人は直接の議論を好まず、概念的に話し、結論を明確に出さない傾向があります。逆に欧米人は議論好きです。筋道を立てて話し、根拠を示しながら議論を戦わせ、結論に導いていく論法をとるのです。

“Why?” “Because …”

私が初めて英国に留学した際、発言する度に必ず“Why(なぜ?)”と聞かれたことには戸惑いました。私は概念的に考えていて、最初から理由をしっかり考えて発言をしていなかったのだと思います。「どうして?」「なぜ?」と聞かれても、それが当然と考えていたので驚いてしまうのです。理由を聞かれることを予想していなかっただけでなく、理由を考えてすらいなかったと言えます。この経験から、発言する前に理由を考えて発言し、必ず “Because(なぜなら)”と繋いで、理由を説明する習慣が身につきました。

更に、そのような話し方をするようになってから、発言をする前に自分の考えをある程度頭の中で整理するようになりました。そうすると、自然と話の筋道が自分の中で明確になり、結論まで導けられるようになりました。状況を分析してから発言するようになったため、自然と論理的思考をするようになり、相手にも自分の意見が伝わり易くなりました。

それでは、論理的思考の方法を考えてみましょう。

論理的思考の方法 – 帰納法と演繹法

論理的思考には、帰納法と演繹法があります。

帰納法とは、複数の事実や事例から導き出される共通点をまとめ、共通点から分かる根拠をもとに結論を導き出す。つまり、事例から逆算する方法です。

演繹法とは、一般的な原則や概念に基づく物事を関連付けて結論を導き出す。つまり、物事の原理を追求する方法です。

人々の思考様式は、育った文化圏によって演繹的か帰納的かに大別されると言われます。この傾向を意識すれば、異文化コミュニケーションに役立ちます。個人で分析や調査をする際、そのアプローチの方法に制限はありません。しかし、それを誰かに説明して理解してもらう必要がある場合、相手によって伝え方を工夫する必要があるでしょう。

帰納的思考の国、演繹的思考の国

思考は個人によってさまざまに異なるため、一概に言い切ることはできませんが、欧米諸国を大きく分けると、帰納的思考の国と演繹的思考の国は以下のようになります。

帰納的思考の国 アメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスなど
演繹的思考の国 イタリア、フランス、ロシア、スペイン、ベルギーなど

帰納的思考の国の出身者と話すときは、事例・実例を交えて話し、演繹的な思考の国の出身者と話すときは原則・法則に則って話すと、自分の意思が正しく伝わり、説得したり行動を促したりすることができるでしょう。

例えば、アメリカ人に仕事のやり方を提案する際には、「〇〇という会社はこういうやり方で成功している。私たちもこのようにするべきではないか」と実例を挙げて説得できるでしょう。一方、イタリア人に仕事のやり方を提案する際には、「このタイプの仕事には◆◆というセオリーが適用できる。だから私たちもこのようにするべきではないか」と説得できるかもしれません。

いずれにせよ、提案の根拠となる理由(Becouse)をしっかり準備して説明できるようにしておくなら、相手のWhyにしっかり対応することができるのです。

今回はグローバル人材に求められる言語能力と関係する3つの要素について考えました。

グローバルビジネスにおいて、お互いの文化的な枠組みや思考プロセスの違いを理解し、意思の疎通ができるコミュニケーション力を培う必要があります。

20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。

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