我慢の果てに気づいた日本の企業文化
7月25日付の日本経済新聞電子版より『海外目線でおもてなし ニッポンの不思議と日々格闘』という記事が出ていました。その中で、日本の商習慣に戸惑いながらも活躍する外国人社員の姿が描かれていました。
「日本のやり方が分からないので我慢するしかない」「でも私は何のためにいるんだ」。鬱々とした日々は、新しい上司が来たとたん、180度回転した。新しい上司は関係者にかけあい、わずか約1カ月で英語版のホームページ開設やパンフレット作成が次々に決まった。「日本では能力や資格より、上司との人間関係が物を言う」と思い知らされた。
海外目線でおもてなし ニッポンの不思議と日々格闘
このエピソードは日本企業で外国人社員を活躍させるためのヒントがうまく描かれていると感じたので、今回の記事の題材にしようと思います。
日本企業が共通して感じる外国人社員活用の課題とは
企業が外国人社員をはじめて採用するとき、人間関係の問題がよく表面化します。その様子は、株式会社ディスコ キャリタスリサーチ実施の「外国人留学生/高度外国人材の採用に関する調査」(2019年12月調査)にも見て取れます。このアンケートの中で「外国人社員の活用の課題」という項目があり、共通して感じている問題点が以下のように挙げられています。
社内での日本語コミュニケーション能力の不足 | 44.8% |
海外人材を活用できる日本人管理者の不足 | 39.1% |
文化や価値観、考え方の違いによるトラブルがある | 35.3% |
まさに冒頭に引用したエピソードにも合致する内容が並んでいます。1番目と3番目の問題は別の記事でも触れているため割愛し、2番目の問題について話していきます。
出典「外国人留学生/高度外国人材の採用に関する調査」(2019年12月調査)
海外人材の能力を引き出す人間はどんな人?
「日本では能力や資格より、上司との人間関係が物を言う」という言葉は、日本企業で働く外国人社員が感じていることをよく代弁していると思います。転職相談でも、似たような不満をよく耳にします。数多くある文化圏で、仕事をおこなうに資質や資格よりも人間関係を大切な要素にすえる傾向が日本企業は相当強いので、なかなか海外人材には理解できないのでしょう。
とはいえ、一種の日本文化と言えるこの傾向を会社全体で変えていくことは、かなりの時間と労力を必要とするでしょうから、やはり海外人材の能力や情熱を引き出せる人間を一人や二人配置する方が良さそうです。では、どういった人物が適任なのでしょうか?
多国籍の社員と一緒に働いたことがあり、かつ管理職の経験がある人であれば良さそうなものですが、そう簡単には見つかりません。従って、自社内である程度は育成をしていくことになるでしょう。そこで、私が見てきた外国人社員と一緒に高いパフォーマンスを発揮してきた人材像やそのポテンシャルを有している人をご紹介します。
聞き上手&納得感をつくるのがうまい人
私が見聞きしてきた中で、最も外国人社員のパフォーマンスをうまく引き出しているタイプです。聞き上手であることがなぜ大切かというと、外国人社員は日本語で、また日本文化に則って物事を説明し切ることができず、聞き手の協力を得てはじめてコミュニケーションが成立するからです。
外国人社員に高い日本語コミュニケーション能力を要求するのは、発信者である彼らにコミュニケーションを依存する形をとっています。伝える側が誤りのない情報を、適切な形式で、わかりやすく届けることを期待しているのです。上記アンケートでも半数近い企業が課題としてあげており、現実に困っているようです。
一方、受信者にコミュニケーションを依存する形、すなわち聞く側が情報を適切に取得することができれば、この問題はおおかた解消します。聞き上手な人は、外国人社員の不完全な表現からも本意を汲み取り、理解することができます。そのため、信頼関係を素早く構築することができ、自然とコミュニケーションの量が増えて親密度が高まります。その結果、質の高い仕事を一緒に進めることができるのです。
上記に加えて重要な資質が、納得感をつくるのがうまいことです。アンケート結果でも述べられているように、文化や価値観、考え方の違いがトラブルにつながることはよくあります。非営利活動であれば、折り合わなかったときは互いに何もしないという手が採れるのですが、ビジネスではそうはいきません。何とか折り合いをつけて仕事を片付けていかなければならないのです。
このとき、聞き上手なだけの人だと、理解できない事柄を無理に理解しようとして時間を費やしたり、必要以上に共感してしまってビジネスとして合理的な判断を下せなくなったりします。それほど責任の重くない一社員ならそれでも構わないでしょうが、管理する立場だとしたらふさわしくないでしょう。
相手の話を聞いても理解できない、共感はするけれども仕事上は我慢してもらう他ない、そういった状況でもうまく合意を作れる力を持っている人が外国人社員のパフォーマンスを引き出しています。難しそうに聞こえるかもしれませんが、社内イベント等の幹事が上手な人なら多くが合致すると思います。意見を広く聞きながら、現実的な判断をして、皆に納得してもらう作業をしていますので。
同じ年代・性別の人
次にご紹介するのが同じ年代・性別の人です。これは、日本企業で働いている外国人社員にインタビューを行う中で気づいたのですが、「社内で誰と一番コミュニケーション取っている?」と聞くと、同年代の同性をあげる人が多く、会社への評価や仕事の満足度もその人の考えに影響されているようなのです。
マイノリティとして日本企業に入る外国人社員は、やはり同質性の高い存在を無意識のうちに求めて、安心を得たいのかもしれません。また、コミュニケーションの量も多くなるため、考え方も一定程度以上影響を受けるのでしょう。そんな彼らに会社としてのミッションを与えて管理者や指導社員にすえれば、うまくパフォーマンスを引き出すことも可能でしょう。
サッカーをやっている人
最後にあげるのが「サッカーをやっている人」です。これはサンプル数も少ないので、まだ仮説の領域ではありますが紹介致します。
元々は、スポーツを嗜んでいる人は新しい人との交流にも前向きで異文化理解の素質が高い、という英文記事から着想を得ました。それから外国人社員と一緒に働く人たちに話を聞いて回っていたところ、一緒にチームを組んで高いパフォーマンスを発揮している人たちの中にはサッカー経験者が多いことに気づいたのです。
詳細を聞いてみると、サッカーは共通の話題として話ができたり、一緒にプレーできたりするなど、一種のコミュニケーションツールとして機能しているようです。また、同じ集団で行動しながらも、見知らぬ人と試合や練習をする機会も割と多く、社交性も自然と磨かれるみたいです。外国人にスター選手が多く、潜在的に外国人に対して良い印象を抱いていることも関係がありそうです。
他のスポーツ経験者との比較データを集めていないので実証はできていないもの、確かな傾向はあるようです。もし、聞き上手&納得感を作るのがうまい人や同じ年代・性別の人が社内に見つからなかった場合、サッカー経験者を管理責任者にしてみると良いかもしれません。
特別難しいことではない
ここまで、外国人社員のパフォーマンスを引き出す人物像について見てきました。最後に私が言いたいことは、日本だけが特別なわけではなく、どの国でもマイノリティはマジョリティとの対立の中、理不尽だと感じる体験をしており、本人の忍耐強さと周囲の寛容な協力があってはじめて良い結果を生むということです。
日本ではまだ人材の多様性が進んでいないためか、外国人労働者の苦難や苦労を描いた記事をよく目にしますが、外国人と一緒に働くのは難しいことでもなんでもありません。異文化コミュニケーションも異文化マネジメントも理屈や方法論ばかりが溢れているので小難しく感じますが、実際に働いてみれば簡単に解決できる問題ばかりです。
日経電子版の記事で最後に明るい展望が書かれていたように、物事は前向きに発展していくと私は思います。一つ一つの違いに辟易するのではなく、差異を気楽に楽しむくらいがちょうどいいでしょう。
高度外国人材に特化した人材コンサルタント。人材探索から在留資格申請、入社後の日本語教育、ダイバーシティ研修等、求人企業の要望にあわせた幅広いサービスを提供する。また留学生専門キャリアアドバイザーとして東京外国語大学、横浜国立大学、立教大学、創価大学等で外国人留学生の就職支援を行い、80カ国・500名以上の就職相談を受ける。内閣官房、内閣府、法務省等の行政および全国の自治体における発表や講演実績も豊富。