外国人を雇用することは、近年ますます一般的になっています。グローバル化が進む中での海外との取引増加や少子高齢化による国内の人材不足が、その背景にあるようです。しかし、外国人雇用はバラ色の人材戦略ではありません。多くのメリットがある一方で、少なからず手間や負担、場合によってはトラブルを引き起こす可能性もあります。
そこで本記事では、注意点や問題点など外国人雇用のデメリットを8個挙げ、その具体的な事例や解決策について言及していきます。企業が外国人労働者を適切に雇用し、生産的な職場環境を構築するためのヒントとなることでしょう。
雇用法の違い
まず、適正な外国人雇用においては、関連法令の正しい知識と運用が必須です。具体的には、彼らの就労ビザ(正しくは就労可能な在留資格)や契約機関に関する届出、外国人雇用状況の届出などが必要です。フィリピンやタイなど国籍によっては本国の労働許可証の申請・届出も必要だったり、高度人材では不要だけれども技能実習や特定技能では必要になる手続など、非常に煩雑で知らないうちに法令違反状態にあるケースも散見されます。
これらの手続きを円滑に進めるためには、外国人雇用に詳しい専門家に依頼したり、自社の人事担当者に必要な教育・研修を行ったりすることが望ましいですが、いずれにしても時間や費用が余分にかかります。特に、日本における外国人雇用は、受入機関にさまざまな義務を課すことで適正化を図ろうとしているようなので、手続きの煩雑さは外国人雇用の大きなデメリットの一つであり続けるでしょう。
高度外国人材の場合、就労可能な在留資格の取得手続きは1名あたり80,000〜100,000円が相場であり、更新手続きも50,000円前後かかります。自社で適正な管理・運用体制を構築することを目指した方が、長期的には望ましいでしょう。
国際的な規制
外国人を雇用する際、異なる国の法律が関与することがあり、国際的な規制を遵守する必要があります。また、労働移民政策の変更など、国際的な状況に応じて異なった手続きを行わなければならない場合があるため、企業側は常に最新の情報を収集する必要があります。
例えば、2020年の新型コロナウイルスの流行により、多くの国が入国制限や渡航制限を設けたことで、企業が外国人労働者を採用する際には、国際的な旅行や入国に関する規制に適合しなければならない場合がありました。また、米国やイギリスなどの一部の国では、移民政策の変更により、外国人労働者のビザ取得に新たな要件や制限が設けられることがあります。このような制度変更時に、企業は新たな手続きを行う必要が発生して、手間や時間がかかるかもしれません。
外国人雇用は、経済成長や労働者の人権保護、税と社会保障、治安維持、国民感情など複合的な要素を考慮して促進策・制限策が政府によって提示されるため、日本人雇用よりどうしても安定性に欠けます。企業は国際的な状況を常に把握し、最新の情報や傾向を収集して、予測を立てながら自社の外国人雇用戦略を計画することが重要です。
外国人雇用は、行政による情報提供や個別相談など無料の支援策が充実している側面もあります。有償のサービスを利用する前に、一度最寄りのハローワークや区役所・市役所などを通じて専門家に相談してみましょう。
居住・転居の問題
外国人を採用する際、企業が彼らに向けた特別な住居の配慮や送迎などのサポートを提供することがあります。当然ですが、それらのサポートにはコストがかかり、日本人採用では通常発生しないものです。
また、家の使い方に関するトラブルも外国人の方がどうしても発生しやすくなります。ごみの分別に対する厳密さや騒音に関する感覚の違い、畳やふすま、布団など慣れない日本式家財の扱い方、敷金・礼金など制度面の無理解、トラブルが生じた際の和解の仕方など、日本人にとっての当たり前が通用しないケースは枚挙にいとまがありません。
そもそも、外国人が借りられる物件数は日本人と比べて圧倒的に少なく、せっかく採用と入社の意思が合致しても住む場所がなくて内定辞退となるケースは珍しくありません。それを避けるため、会社で物件を契約して社宅として提供している会社も見かけますが、そこまで踏み切れるところは多くないでしょう。
住居は負担が大きい一方、外国人を惹きつける要素として有効活用できる部分でもあります。外国人雇用を推進する企業においては、社宅にしろ、住宅手当にしろ、物件探しにしろ、何かしら住居に関するサポートを確立して、候補者に積極的にアピールすべきです。
見えにくいリスクとの戦い
外国人雇用は、とにかく見えないリスクとコストに溢れています。行政書士や社労士、日本語教師、監理団体、登録支援機関などそれぞれの専門家に依頼をしたとき、自分の得意領域については問題なく仕事を完遂してくれることが十分期待できます。しかし、領域外のことは知らない場合が多く、そういった”隙間”が落とし穴として後々に問題となります。そして、外国人雇用を行う企業からすれば「これは誰に依頼すべき問題なのか?」が判断しづらく、適切な情報にアクセスしづらい状況にあります。
その他にも、外国人労働者がビザの取得や労働許可証の申請などの手続きにおいて書類の不備や翻訳ミスなどを指摘され、手続きが遅れることがあります。その結果、予定通りの配属・就労ができず、その間に業務が滞ったり、そのために臨時の人材獲得コストが発生したりすることも考えられます。
既に述べた部分もありますが、就労ビザや労働許可証の申請、専門家依頼費用、航空券手配、住居費、監理組合費、日本語教育費、社内研修費など外国人雇用によって発生する費用が少なからず存在します。外国人雇用に慣れていれば事前に総額を見積もることは可能でしょうが、これから外国人雇用を始める企業の多くは、後から後から沸いて出てくる追加コストに辟易することでしょう。また、こういった費用について調べ抜き、業者を比較検討して依頼を出すには膨大な時間もかかります。
MICHIでは、外国人雇用に関する無料相談窓口を設けていますが、ここに寄せられる質問はソーシャライズ社のコンサルタントが回答しています。ソーシャライズは外国人雇用に特化した人材サービスの会社で、小規模ながら豊富な実績を有しています。事実「外国人 コンサルティング」で検索すると、錚々たる大企業の中でポツンと上位に存在しています。
人材の定着率の問題
様々な調査において、外国人労働者は日本人と比べて高い早期離職率を示しています。企業側からすれば、補充採用や定着率向上の施策を講じるため余分なコストがかかります。
外国人労働者が早期に離職する原因は、後述する言語の壁や、職場及び就労文化の違いなどがあげられます。例えば、始業時間は厳密に管理される一方で、終業時間は守られず残業が常態化している職場環境は意味不明ですし、自らの業務範囲が明確に定められておらず「ちょっとこれお願いできる?」なんてタスクの振られ方をする点も理解できない人が多いです。
そのような違和感が自分の中に生じたとき、具体的な制度上の改善を図るのではなく、夜の飲み会に誘われて「俺が若かった頃も納得できない部分は多かったさ。でも、それを乗り越えたら社会人として成長できるから頑張ろう。」なんて言われた日には、退職を決心する人も少なからず出てくるでしょう。
日本人の、日本人による、日本式の人材マネジメントは有効に働かないことがよくあるので、多くの企業では「外国人社員の高い離職率」に悩まされることでしょう。
早期離職の改善には、具体的施策を講じる前にマネジメント層が外国人を知る必要があります。どんなに日本語が上手になっても、日本に住み続けても、日本人化を期待することはできず、彼らのロジックと感性に合わせて対応できることが重要です。いきなり制度構築はできないので、まずはマネジメントする個人のその素養を身につけさせましょう。
労働条件に対する不十分な理解と不満
国によって労働環境や法律が異なるため、外国人労働者を雇用する企業は、彼らにとって魅力的な労働条件を用意し、それを正しく理解してもらうことが重要です。したがって、採用前に事前に調査を行い、彼らが当然に期待している条件を十分に理解する必要がありますし、「社内規則に書いてある=わかってもらえる」という考え方は捨てて、丁寧に説明する時間を設けた方が良いです。
ある介護施設は外国人労働者を雇用することになり、社会保険や退職金制度など、福利厚生に関する制度を整備しました。しかし、外国人労働者にとっては制度が理解しづらく、十分な保障を受けられていないという不満が噴出してしまう事態となりました。そこで、その介護施設は、制度説明の時間を設けるとともに、申請手続きと書類を簡便化して実際に利用してもらうことに注力しました。結果、制度には手を入れることなく、外国人スタッフの福利厚生に対する満足度を上げることに成功しました。
外国人を雇用する際には、彼らにとって魅力的な労働条件を用意するだけではなく、正しく理解してもらうことが重要です。後述する「言語の問題」と同様、コミュニケーションの量を増やすことで回避できるでしょう。
言語の問題
多くの企業が外国人雇用を始めるにあたり、言語の問題を懸念します。そして、その心配通り、働き始めは実に多くの問題が発生し、慣れてきてからもトラブルは起きます。
特に、日本語はTPOや社会的地位・身分等に応じた表現方法が実に豊富なので、日々の業務で間違いを犯さない外国人社員はほぼ皆無でしょう。そして、社内コミュニケーションであればまだトラブルになりにくいのですが、”ウチとソト”の概念がある日本では社外コミュニケーションにおいて言葉遣いや発音の間違いが問題となりやすいです。
例えば、あるIT企業では外国人社員が開発業務に従事することになりました。しかし、その現場で使用される”アポ”や”リスケ”などのカタカナ語は、これまで習ったことのない日本語ばかりであり、辞書にも載っていない言葉ばかりです。「カタカナだからきっと英語由来のはず・・・」と考えてみても、元々の発音と乖離しているため予測しようもありません。このようなコミュニケーションの障害から、プロジェクト管理やタスクの割り当てに誤解が生じ、業務の進行に支障をきたすことがありました。そこで、企業側は日本人社員に対する現地言語の研修や外国人社員に対するコミュニケーションスキルの向上を支援する取り組みを実施し、業務の円滑な進行を図りました。
経験上、言語の壁はコミュニケーションの量を増加させればほとんど解決できます。人間という生物が持つ「慣れ」の力を信じましょう。話しているうちに不完全な言語運用でも意図が伝わるようになってきます。それでどうしても不都合が生じるようであれば、日本語や英語等の語学研修を会社として実施することをお勧めします。
文化の違い
文化的な違いからくる問題は今この瞬間も世界のどこかで生じています。国の違いはもちろんのこと、民族や宗教、出身地、価値観・規範など数えきれないほど多くの要素が絡み合っています。職場での文化的なトラブルを避けるためには、重大性や効率性の観点からいくつかに問題を絞り込み、それらに関して理解を促進させる教育プログラムを行うのが良いでしょう。
例えば、日本では「上司に従うこと」が重視される一方、アメリカでは「自分の意見を述べること」の方が大切と考えられます。そのため、ことあるごとに意見するアメリカ人社員を上司は快く思わないでしょうし、意見を言う方も全然聞き入れてくれない上司の姿にうんざりすることでしょう。この問題は、アメリカ人に限らず様々な国出身の人が不満に感じると予想されますし、その結果離職率を引き上げてしまうことも容易に考えられます。そして、この状況に対応するには当該上司に対する教育プログラムの実施で改善が見込めそうです。重大性と効率性の観点から着手すべき優先課題と言えるので、ぜひ対策すべきでしょう。
一方、1人〜2人のために完全ハラールの食事を社員食堂に追加することは、優先的に講じるべき施策とは言えないでしょう。食事に関しては自分自身で必要なだけの対応ができますし、「ハラール」の意味するところを正しく理解しないまま何となく良かれとやってしまうことは危険です。やるなら専門家を入れてしっかりやるべきですし、それが難しいのであれば自社の限界を素直に認めて、今の状況でできうる最善策を当該外国人社員と一緒に考える方が誠実と言えます。
文化の違いは無限にあるので、社員側にセルフケアをお願いする部分が必ず出てきます。何でもかんでも会社が対応しなければならない訳ではないので、お互いが合意できる解決策を模索していきましょう。
結論
外国人雇用は、企業にとって大きなメリットがある一方、デメリットも少なからず存在します。それらを明確にしないまま、何となくでやってしまうと重大なトラブルを引き起こしてしまうことは必然なので、積極的な外国人受け入れが各所で叫ばれている今こそ注意深く検討しましょう。
やってみなければわからない点はもちろんあるのですが、受入企業及びそこで働く人たちの納得がないまま何となく外国人雇用を始めてしまうと学びや気づきがないまま全てが面倒に思えてしまいますので、まずは当記事で紹介した各デメリットについて社内で話し合ってみてはいかがでしょうか?
高度外国人材に特化した人材コンサルタント。人材探索から在留資格申請、入社後の日本語教育、ダイバーシティ研修等、求人企業の要望にあわせた幅広いサービスを提供する。また留学生専門キャリアアドバイザーとして東京外国語大学、横浜国立大学、立教大学、創価大学等で外国人留学生の就職支援を行い、80カ国・500名以上の就職相談を受ける。内閣官房、内閣府、法務省等の行政および全国の自治体における発表や講演実績も豊富。