外国人労働者の労災事例と安全対策ガイド|3つの事例で解説

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今から10年程前、2013年頃ですが、筆者はネパールの田舎町に住んでいました。地方新聞を眺めていると、カタールの建設現場でのネパール人労働者事故死の記事が目に留まりました。1人死亡したというのではなく、死亡事故が頻発しているのに対策や保証がされていない、という内容の記事でした。

当時はカタールがサッカーのワールドカップ開催を勝ち取り、スタジアム建設のために多くのネパール人やフィリピン人がカタールに出稼ぎに行っていました。しかし、日本でも注目を集めたカタールワールドカップのお祭り騒ぎの陰で、6,500人以上の建設作業員が死亡していたことは、あまりニュースにはなりませんでした。

今回は、日本国内でも見過ごされがちな外国人労働者の労働災害について、厚生労働省が公表している資料を基に考えてみましょう。

日本における外国人労働者の労災発生状況と背景

増加に転じた労働災害の発生数

令和4年5月、厚生労働省は令和3年の労働災害発生状況を公表しました。その中で、「労働災害による死亡者数」と「休業4日以上の死傷者数」が共に、平成10年以降で最多となったと書かれています。これは、新型コロナウイルス感染症へのり患による労働災害がカウントされていることが最大の原因と考えられます。

「労働災害による死亡者数」と「休業4日以上の死傷者数」は以下の通りです。

労働災害による死亡者数 867人
休業4日以上の死傷者数 149,918人

出典:令和3年の労働災害発生状況を公表(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_25944.html)

外国人労働者の労働災害の発生数

一方、令和3年の外国人労働者の労働災害発生状況は、

労働災害による死亡者数 24人
休業4日以上の死傷者数 5,715人

となっており、

労働災害による死亡者数 全体の2.77%
休業4日以上の死傷者数 全体の3.81%

であることがわかります。

外国人労働者の死傷者数は、

令和2年 4,682人
令和元年 3,928人

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/000943974.pdf

また、令和3年の死傷者数5,715人のうち、在留資格別で最も多いのは、定住者や永住者などが含まれる「身分に基づく在留資格」の2,358人(全体の41.3%)で、国籍別で最も多いのは、ベトナムの1,718人(全体の30.1%)となっています。

続いては、外国人労働者の労災事例と、外国人特有の問題について紐解いていきましょう。

外国人労働者の実際の労災事例と対策

以下の事例は、厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に掲載されている事例のうち、外国人労働者に関するものを検索し、要約しています。
出典:職場のあんぜんサイト(https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_FND.aspx)

全身重度熱傷で死亡した事例

業種:金属製品製造業
発生状況:
金属加工の工場で、椅子に座りながらエアスプレーを用いて部品に付着したエタノールを吹き飛ばす等の洗浄作業を行っていたところ、近くに置いてあったストーブの火が被災者に引火し、全身に燃え広がった。被災者はドクターヘリで病院に搬送されたが、約2か月後に死亡した。
被災者は単独で作業していたが、作業途中、危険に気付いた同僚が被災者の椅子とストーブの間隔を開けて、口頭で注意をしていた。災害発生時に作業箇所は周囲の作業者から死角になっていたため、ストーブの火が燃え移る瞬間を目撃した人はいなかった。
事故の原因としては、①ストーブ(火源)の近くで、引火性の物質であるエタノールを取り扱ったこと。②作業指揮者を定め、指導させていなかったこと。③安全衛生に関する教育訓練が不十分だったこと。特に外国人労働者に対する教育訓練が実施されていなかったことが指摘されました。
製造業においては、使い方を誤るとけがや大事故につながる器具や装置がたくさんあります。ある程度日本語が理解できるとはいえ、難しい用語が出てくるマニュアルや講習を、外国人労働者が十分理解できない場合もあるでしょう。マニュアルの多言語化や全員が理解できる丁寧な講習を行うことが求められます。

外国人作業者が無資格でクレーンを運転、転倒

死亡者数:1名
発生状況:
不法就労の外国人作業者AとBが、車両積載形トラッククレーン(つり上げ荷重2.5トン)を使って、鉄板等を運搬したあとのつり下ろし作業中、過荷重によりトラッククレーンが転倒して、車体とガードレールの間に挟まれた。Aは自動車の運転免許は保持していたが、A、B両人とも小型移動式クレーン技能講習及び玉掛技能講習を受講しておらず、見よう見真似で作業していた。この事故で死傷した外国人労働者は不法就労であり、且つ無資格でクレーンを運転していたということです。

また、外国人労働者が労災に遭っても、事業主が労災隠しを行う事例も報告されています。けがをした本人が労災保険などの制度をじゅうぶんに理解していなかったり、不法在留や当事例のような不法就労であったりする場合は、表沙汰にするわけにはいかないという被災者自身の事情も相まって、報告すらされないこともあるでしょう。

外国人作業者が後進してきたダンプトラックに激突される

死亡者数:1名
発生状況:
道路舗装工事において、小型締固め機械(「以下タンパ」という。)を用いて締固め作業を行っていた外国人作業者2名のうちの1名が、後進で走行してきた工事用10トンダンプトラックにひかれて死亡した。

この事故では、原因の一つに、「被災者等が外国人であり、日本語がよく理解できなかったため、当日に予定されている作業がよく伝わっていなかったこと。また、ダンプトラックが進入してきたとき、他の労働者は退避していたが、被災者等にはこれが伝わらず、引き続き作業を行っていたこと」が指摘されました。

外国人労働者の労災事例 – まとめ

この記事では、増加傾向にある外国人労働者の労災から、3つの事例を取り上げました。

不法就労且つ無資格で重機を取り扱った等、そもそもあってはならない違反による事故が現在も起きていることに、衝撃を受けるかもしれません。一方、日本語がじゅうぶん理解できなかったことによる事故は、労働者本人だけでなく企業の努力によって防ぐこともできるでしょう。

母国語で研修を行う。社内掲示物やマニュアルを、できるだけ簡単な日本語やイラストを使用して作成する、等々。こうした工夫をしている企業も多くあります。

人権問題にもなり得る外国人労働者の労災問題

冒頭で取り上げたカタールにおけるネパール人の労災問題など、外国人労働者の労災問題は時に人権問題に発展します。
安全を重視してきた日本や日本企業の国際的イメージを守るためにも、日本人はもちろんのこと、外国人労働者の安全に注意を払う必要があると言えます。

グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。

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