皆さんは、オーストラリアと聞くとどのような国を思い浮かべるでしょうか?
世界最大級のサンゴ礁やどこまでも続く青い海、壮大な大自然でしょうか?美しいオペラハウスで知られる大都市シドニーの景観でしょうか?あるいは、多民族国家として様々な国の人が暮らしている国というイメージを持つ人もいるでしょう。
それでは、オーストラリアの人口が1980年からの四十年間で1,000万人増えたということをご存知でしたか?インドやナイジェリアの話しではありません。日本よりもずっと人口が少ない経済先進国オーストラリアの話です。
今回は、オーストラリアの人口増加と経済成長について、筆者自身の考察も交えてお話しします。人口減少と経済停滞に悩む日本にとって、きっと良い教訓があるでしょう。
25年以上海外生活をした筆者が見た、オーストラリアの変化
オーストラリアはこの20年で大きく変わりました。少なくとも、筆者はそれを強く感じています。
私がオーストラリアを初めて訪れたのは1997年でした。正直に言うと、その当時は至る所で白人至上主義を感じていました。ホテルや飲食店の中では、白人客への扱いと日本人である私への扱いの違いを感じ、居心地が悪かったことを覚えています。それが原因で、隣国インドネシアに駐在していたにもかかわらず、私は長い間オーストラリアに行くことを避けていました。
しかし、それから20年後の2017年に訪れた時には、オーストラリアは大きく変化していると感じました。様々な国から来た人々がいて、色々な国の食べ物が溢れて、以前より活気を感じました。その一方で、守らなければならない標準というものがあまりなく、人々が自由に生きているように見えました。
例えば、クリスマスの時期には、海ではサンタの帽子をかぶってサーフィンをする人達がいます。一方、道を隔てたところに設置されたスケートリンクでは、アイススケートを楽しんでいる人達がいます。街の人達の服装はというと、Tシャツ短パンの人もいれば、厚めのジャケットを着ている人もいるのです。好きな格好で、好きなことをして、人目を気にせず楽しんでいるようでした。
このように、20年振りに訪れた私のオートストラリアの印象はすっかり変わり、人々の違いを許容できる、自由に人々が生きている場所のように感じました。そして、それが国の活気を生んでいると思いました。
このようにオーストラリアに変化をもたらした要因は何なのか、調べてみたいと思います。最初に、目に見える指標から、経済成長と人口増加の状況を確認しましょう。
オーストラリアの経済成長と人口増加
オーストラリア経済|28年連続のプラス成長
まずはオーストラリアの経済成長について見てみましょう。
オーストラリアの経済は、2020年にコロナの影響でマイナス成長となりました。しかし、1992年から2019年まで、先進国で最も長い28年連続のプラス成長を達成しています。そして、2020年度の実質GDP(自国通貨)は1991年度に比べ2.4倍近くの成長を達成しているのです。
2006年に、オーストラリアは日本の一人当たりのGDP(USDベース)を抜きました。そして、2020年度の一人当たりのGDP(USDベース)を見てみると、オーストラリアは世界で10位のUSD52,905。日本は19位のUSD40,089となっています。
出典:IMF world Economic Outlook Databases
これらの指標から、オーストラリアは先進諸国の中でも顕著な経済成長を遂げていることが見て取れます。
それでは続いて、オーストラリアの経済成長を後押ししていると言われる人口増加について見てみましょう。
オーストラリアの人口増加|40年で1,000万人増
オーストラリアでは、経済だけでなく人口も増加し続けています。これは、少子高齢化による深刻な人手不足に悩み、低い経済成長率を続ける日本とは対照的です。
オーストラリアの人口は1980年には1500万人弱でした。しかし、2020年にはなんと2500万人に増加しています。
この人口増加の大きな要因は何でしょうか?それは移民政策です。
2018年のOECD(経済協力開発機構)の発表では、オーストラリアの総人口の28%が海外生まれ、親のどちらかが海外出身の移民2世の人口は46%に達したとされています。そして国連は、今後、ブラジル、ロシア、インド、中国、そして米国より、オーストラリアの人口増加率は高く推移すると予想しています。
年度 | 人口 | 累積増加率 |
---|---|---|
2000 | 18,991,431 | |
2005 | 20,178,540 | 6.3% |
2010 | 22,154,679 | 16.7% |
2015 | 23,932,502 | 26.0% |
2020 | 25,499,884 | 34.3% |
オーストラリアの人口増加率より抜粋
それでは、このように増加を続けるオーストラリアの人口ピラミッドを見てみましょう。
経済成長の原動力は若い世代の増加
日本では少子高齢化が叫ばれて久しいですが、オーストラリアの人口ピラミッドにその様子は見られません。
出典:www.un.org – United Nations, Department of Economic and Social Affairs, Population Division (2019). World Population Prospects 2019, Online Edition. Rev. 1.
オーストラリアでは、人口が毎年増加しているだけでなく、若い世代の人口が増加していることが特徴となっています。最新の国勢調査によると、オーストラリアの18〜36歳の人口は50万人増加し、このグループは全人口の26%を占めています。更に、最も多い年齢層は消費意欲が高い30歳代です。そして、消費意欲が高い年齢層が多いことは、オーストラリア経済の中心である個人消費の押し上げにつながると期待されています。
続いて、この人口増加の主な要因である、オーストラリアの移民政策について見てみましょう。そこには、外国人労働者を増やそうとしている日本が知っておくべき経緯があります。
積極的な技能移民政策
オーストラリアは、1788年にイギリスの流刑囚を送る植民地として発足した移民国家です。連邦政府が設置されたのは1901年で、国としての歴史はまだ120年ほどしかありません。
元々は白豪主義と呼ばれる、白人優先の極めて選択的な政策を採用していました。しかし1970年代に、人口問題を移民政策によって解決しようと舵を切り、移民の受け入れを積極化しました。
オーストラリアは、金融や観光などの労働集約型のサービス業がGDPの7割を占める産業構造です。しかしながら、日本の21倍の国土に人口が散らばっているため、スキルワーカーのリクルート(雇用)やリテンション(人材確保)が深刻な課題となりました。
そのような状況下で、オーストラリアは移民政策を人口増加による成長戦略として位置付けました。そして、自国にとって必要な外国人を選択的に受け入れるといった注意深い移民政策を、1990年代から取り入れたのです。これが技能移民政策です。
オーストラリアでは、受け入れるべき移民の規模を、州別・職業別の労働人口データに基づいて毎年緻密に計算して決定しました。そして、その計算に基づいて外国人を選択的に受け入れることで、労働力の不足を満たす政策を取りました。
その結果、技能移民が移民全体に占めるシェアは約3分の2に拡大し、1995年に1,800万人であった人口が2018年には2,500万人へと増加しました。そして、オーストラリアの1990年代以降の人口増加の63.2%が移民による増加となっています。
しかし、移民が増えるということは、同時にリスクを抱えることにもなります。日本でも話題に上ることが多くなってきましたが、文化的背景の違う人たちが同じ地域に住むことには、常にトラブルが付いてきます。
それでは、元々白人優先の社会であったオーストラリアは、この問題をどのように乗り越え“多文化主義”を確立していったのでしょうか?次の記事『経済成長を続ける多文化主義国家オーストラリア(後編)』では、そのことについて考察しましょう。
20年以上世界4大会計事務所の1つアーンストアンドヤング(EY)のジャカルタ事務所のエグゼキュティブダイレクターとして、ジャパンデスクを率い、日系企業にアドバイザリーサービスを提供。またジャカルタジャパンクラブで、税務・会計カウンセラー、及び課税委員会の専門員を務め、日系企業の税務問題に関わってきた。現在は日本在住。海外滞在歴は30年、渡航国はアジア、欧州、北米の38か国、480都市以上に及ぶ。 国際基督教大学大学卒。英国マンチェスタービジネススクールでMBA取得。