特定技能者や外国人材の日本語能力について気にしている企業は多くあります。今回の記事では、特定技能者の日本語能力試験と、職場での円滑なコミュニケーションのための工夫について見ていきましょう。
特定技能とは?- 就労までのステップを解説
特定技能とは?
在留資格「特定技能」は、日本で働く外国人労働者向けの制度です。特定技能には、1号と2号の2種類の在留資格があります。
特定技能1号は、各分野ごとに課せられる技能試験や日本語試験に合格することで、通算5年間までの就労が可能になる資格です。
特定技能1号では、学歴や母国での関連業務経験が必要なく、基本的に家族帯同は認められません。また、登録支援機関による支援を受ける必要があります。受け入れ企業が登録支援機関の代わりに支援することもできますが、過去2年間外国人社員が在籍していない場合は「登録支援機関」への委託が必須となります。技能実習と異なり、特定技能1号では転職が可能であり、受け入れ人数に制限がない(介護と建設分野を除く)のが特徴です。
特定技能2号は、高い技術水準を持つ者に対して付与される在留資格で、特定技能1号修了者が移行できる在留資格です。
特定技能2号は、在留期限の更新が可能なため許可され続ける限り実質的に無期限であり、家族の帯同が認められるという利点があります。ただし、介護分野においては特定技能2号での受け入れは行われておらず、介護福祉士資格を取得して在留資格「介護」に切り替える必要があります。
特定技能外国人を受け入れるための4つのステップ
特定技能外国人の就労は、その人材の背景によって必要な条件が異なります。
- ①既に特定技能で働いていて、同じ分野の仕事に転職する:
- 既に特定技能者であるため、日本語試験や技能評価試験は不要。
- ②既に特定技能で働いていて、違う分野の仕事に転職する:
- 特定技能者であるものの、分野が違うため日本語試験と技能評価試験が必要。
- ③元技能実習生で、実習時と同じ分野の仕事に転職する:
- 日本語試験や技能評価試験は不要。帰国した人も対象。
- ④試験に合格して、新しく特定技能として働く:
- 日本語試験と技能評価試験が必要。異なる分野で働きたい人や留学生、初めて入国する人も対象。
①と③の場合は試験が不要で、②と④の場合は日本語試験と技能評価試験が必要です。
また、②と④の場合は、以下の4つのステップを経る必要があります。
- 技能評価試験と日本語能力試験に合格する
- 受け入れ企業と雇用契約を締結する
- 国内在留者は在留資格変更申請 / 国外から呼び寄せなら在留資格認定証明書交付申請を行う
- 申請許可が下りた後、就業開始
これらのステップは単純に見えますが、実際には膨大な量の書類を準備する必要があり、しかも書き方の案内があまりないのでとても困る企業が続出しています。法令が改正されて書類が簡素化するまでの間は、専門家に委託する方が良いでしょう。
特定技能1号の取得に必要な日本語能力試験2選
それでは、気になる特定技能者の日本語能力について見てみましょう。特定技能1号の取得には、日本語能力試験(JLPT)または国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)のいずれかを受験する必要があります。
日本語能力試験(JLPT)
最もポピュラーな日本語試験で、読解・聴解・文法・語彙の4技能をN1〜N5の5段階で測定します。
- 実施日:
- 毎年7月と12月の第一日曜日。
- 試験実施場所:
- 日本の47都道府県および世界76の国と地域、232都市。
- 試験方法:
- マークシート方式。
- 受験申し込み:
- 日本語能力試験受付センターのサイトから。
国際交流基金日本語基礎テスト(JFT-Basic)
実践的な日本語能力を重視した試験で、会話力を測定します。
- 実施日:
- 各国毎のスケジュールが公開されている。
- 試験実施場所:
- 日本およびアジア諸国。
- 試験方法:
- CBT方式(パソコンでテスト)。
- 受験申し込み:
- 国際交流基金のウェブサイトから。
特定技能1号の取得には、日本語能力試験の場合はN4レベル以上を、国際交流基金日本語基礎テストの場合はA2レベル以上を取得する必要があります。これらの試験は、日本語能力を測る主要な試験として、特定技能外国人の就労をサポートしています。
次に、現場レベルでの日本語能力の問題を解決するにはどうすれば良いのでしょうか?
お互い困っている?- 外国人労働者に求められる日本語能力とは?
外国人労働者とのコミュニケーションに課題を感じる日本企業が約7割もある一方、外国人労働者も日本語の難しさや分かりにくさをコミュニケーションの課題として感じています。特に、日本語ネイティブでないことへの配慮不足が問題視されています。生活上必要な日本語と職場で必要な日本語は種類が異なるため、外国人労働者には働くための日本語教育が不可欠です。
外国人労働者には、仕事内容やポジションに応じた日本語能力が求められます。例えば、技能実習で介護の仕事をするためには最低N4に合格することが必要とされています。N4レベルだと簡単な日本語は理解できますが、コミュニケーションを円滑に図ることはほとんどできません。高度人材として総合職で働くには、より高いN2やN1レベルが求められるでしょう。しかし、実際の職場でのコミュニケーションにおいては、こういった高いレベルの日本語能力試験に合格していたとしても円滑なコミュニケーションが保障されるわけではありません。
外国人労働者にとってJLPTは、在留資格を取得したり書類上の要件を満たしたりするための手段であって、ゴールではありません。日本人とともに業務を遂行するためには、試験合格よりも実用的なコミュニケーション能力が重視されます。実際、建設業や製造業などの危険を伴う現場では、安全衛生のために緊急時の日本語教育が重要視されています。つまり、外国人労働者にとっては、実務的で重大な事柄に関わる日本語能力を磨くことが重要であり、それこそ仕事を円滑に進める上で欠かせない要素となります。
職場でも使える?- 『やさしい日本語』とは
実務的で重大な事柄に関わる日本語能力を磨くことに特化した日本語教育の良い事例として『やさしい日本語』が挙げられます。
やさしい日本語は、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、日本語が習熟していない人にも災害時の情報が伝わる手段として考案されました。災害時に外国人が適切な情報を受け取れるよう日本語能力試験旧3級(現N4)程度の日本語を使い、簡潔な表現を徹底する手法です。現在では、外国人観光客や外国人住民とのコミュニケーションを円滑にするために利用されるようにもなりました。
やさしい日本語の利用は、日常のさまざまな分野で進んでいます。例えば、在留外国人への生活情報提供、医療現場でのコミュニケーション支援などが挙げられます。特に医療現場では、通訳の難しさや不足を補うために、やさしい日本語の活用が重要視されています。
やさしい日本語の使い方には、話し手が注意すべきポイントがあります。例えば、文章を短くする、語尾を明瞭にする、尊敬語や謙譲語を避ける、基本の動詞で表現する、二重否定表現を使わない、などです。やさしい日本語は、日本社会における多文化共生の一環として、これからもさまざまな分野での活用が進むことが期待されています。
メルカリの好事例から見る職場での『やさしい日本語』
メルカリは、多国籍な社員を受け入れるために、独自のコミュニケーション手段として「やさしい日本語」と「やさしい英語」を公用語として採用しています。これにより、日本語を母国語としない外国人社員ともコミュニケーションを図りやすくなり、エンジニアの約半数が外国人となっている同社を支えています。メルカリが取り組んでいる「やさしい日本語」の取り組みは、多言語翻訳の難しさを補うだけでなく、異なる文化や背景を持つ人々への配慮を社員間に醸成し、多様な視点を取り入れた意思決定を促進しているとも言われています。
また、メルカリ内には言語教育専門チームがあり、「やさしい日本語」の研修を行っています。これは、他の自治体や企業に対しても提供されており、外国人労働者とのコミュニケーション向上を支援しています。この取り組みは、日本国内での多様性を受け入れ、活かすための良い例として注目されています。
上述の他にも「やさしい日本語」の活用には、漢字の利用を減らす、擬音語や擬態語を使わないなどのポイントがあります。これらの工夫をすることで、日本語に不慣れな外国人労働者とのコミュニケーションがより円滑になり、職場環境全体のコミュニケーションも向上することでしょう。過去の事例を参考にしながら、是非自分の会社・組織にあった「やさしい日本語」を実践してみてください。
グローバルタレントの力で日本企業の海外進出をサポートする【株式会社PILOT-JAPAN】代表。及び、多言語Web支援を行う【PJ-T&C合同会社】代表。キャリアコンサルタントとして500名以上の留学生や転職を希望する外国人材のカウンセリングを行ってきた。南アジア各国に駐在、長期出張経験があり、特にネパールに精通している。