再生と破壊が同時に行われるマングローブと周辺地域の未来

森林資源や地球環境の問題が語られる際に、ときどき耳にする言葉「マングローブ」

皆さんも多分、映像か何かで水辺に生える沢山の木々を見たことがあると思います。そう、マングローブは単一の植物の名前ではなく、海水の干潮満潮の影響を受け、満潮時には海になり干潮時には陸になる土地「潮間帯」に育つ植物の総称なのです。満潮時などに根本が水没し、まるで水面から木が生えているように見えるマングローブ林の風景は、まさに「海の森」といえます。

海岸線や河口域に密生して広がるマングローブ林は、高波・潮風から人々の生命や財産、田畑や作物を守る自然の防波堤として非常に大切な役割を果たしていますし、河口域の干潟などで上流から運ばれてくる微粒土壌が海に流失するのを防ぎ、土地の固定化を促進する働きもあります。

アジア、アフリカ、オセアニア、中南米など126の国や地域の、主に熱帯や亜熱帯の海岸線、河口域、デルタ地域に計1520万ヘクタール(2016年時点)のマングローブ林が広がっていますが、開発などでの破壊が進んでいるため年間約1%の割合で減少しているのが現状です。

干潟に現れた命のオアシス!マングローブの木々

干潟は、河川上流や海から供給される有機物が集まって分解される場所です。生物としては栄養がたくさんあるため非常に生活しがいのある場所なのですが、干潟だけだと周囲を守る物がないため命の危険にさらされてしまう場合があります。

そこでマングローブの登場です。マングローブはさまざまな木々が存在しますが、一番よく見られるのはメヒルギやヤエヤマヒルギなどの「ヒルギ科」の植物です。この科の植物は、タコの足のような枝がたくさん地表付近に生えており、これが干潟に住まう生物たちを外敵から守る役割を果たしています。

実はこの枝にみえるもの、「呼吸根」と呼ばれる根なんです。泥の中では満足に呼吸できないので、こうして地表に見える形で根を張り巡らすことで、例え満潮時でも呼吸が楽にできる優れモノなんです。

また、海水から栄養を吸い上げた際の余分な塩分については、葉にその塩分をため込み落葉させることできちんと逃すことができます。

もう一つヒルギ科の植物の特徴としてあげられるのが、「鞘のような形をした果実」です。この形が大事なんですね。

種はこの鞘の中の枝に近い部分に入っており、枝から直接栄養を得て、枝についたまま鞘の中で発芽します。これを「胎生種子」あるいは「胎生実生」と呼びます。発芽がある程度進んだ段階で鞘は枝から離れます。そして干潟に「突き刺さり」ます。突き刺さることで満潮時にも流されることなく成長していけるんですね。また仮に満潮時に枝から離れてその場では干潟に突き刺さらなかったとしても、海流に乗って分散し別の土地の泥の表面に落ち着くことができるのも特徴です。

時代に翻弄される木々…植林と破壊の繰り返し

ベトナムはインドシナ半島東部に位置し、南北に細長く、海岸線は3200キロ以上の長さです。そこには現在80種類近くのマングローブが見られます。

マングローブ林は、ベトナムでも住民にとってたくさんの恩恵を与えていますが、開発や戦争の影響でたびたび大規模な被害にさらされてきました。1887年から始まったフランスによる統治時代、植民地政策によって輸出用のコメの増産が推し進められたことで水田に転換されたり、運送用の船の燃料として多くの木々が伐採されました。

また戦争の影響により、1940年代には40万ヘクタールあった土地が、70年代にはその半分の約20万ヘクタールにまで減少しました。

ベトナム戦争の間、密生したマングローブ林は南ベトナム解放戦線の兵士たちの隠れ家として機能していました。林内では豊富な魚介類や炊事用の燃料を得ることができ、野菜の代わりになる蔓性のマングローブも手に入ることで、兵士たちは生態系の恵みを得ながら戦うことができました。

手を焼いたアメリカ軍は、このマングローブ林を消滅させるべく「枯葉剤」を大量散布しました。これにより、当時の南ベトナムのマングローブ林面積の約半分が壊滅。レジスタンスの人々の拠点となっていたホーチミン市南部のカンザー地区、カマウ半島では、特に多くの枯葉剤が散布されました。カンザーでは4万ヘクタール、カマウ半島では4万5000ヘクタールのマングローブ林が死に絶えました。

戦争終了後、まもなく官民あげてのマングローブ植林が行われました。当時から政府をはじめ沿岸に住む人々は、マングローブの重要性をしっかり認識されていたんですね。フランス統治時代にもすでに行われていたようですが、国をあげての大規模なものはベトナム戦争後からでした。

枯葉剤の散布が深刻だったカマウ半島では、戦時中にも植林は行われており、戦後もその活動は続けられ、1975年から1993年の間で計5万6445ヘクタールものマングローブが植えられました。カンザーでは1978年から集中的に開始され、2012年には2万7000ヘクタールと、森林面積としては戦前に迫る回復を見せました。

カンザーはホーチミン市による厳しい保護・管理により、世界でも数少ないマングローブ林回復・保全の成功例として注目を集めました。そして2001年1月、ユネスコに生物保護区として承認されました。

その一方で、戦後復旧や人口増加に伴い、建材や燃料材としてのマングローブ破壊も進みました。台風の被害が深刻な北部・中部では、海岸の堤防修復に補強材として大量のマングローブの幹や枝が使用されました。

また、1980年代後半から主に南部で盛んになった「エビ養殖」が近年のマングローブ林破壊に拍車をかけました。政府が外貨獲得のためエビ養殖を推奨、人々はあちこちで養殖に好都合なマングローブ林を切り開き、養殖池を造成しました。現在もこのエビの養殖は盛んに行われており、養殖場の拡大も続けられているため、自分で植林したマングローブを伐採してエビを養殖する、などというケースも頻発しています。

マングローブ破壊の原因は…日本!?

近代的な「エビ養殖」のはじまりは、実は日本なんです。1960年代にクルマエビの養殖に成功した日本は、その技術を台湾に伝え、台湾ではブラックタイガーの養殖法を確立。1980年代後半に台湾の養殖事業が低迷し、その技術がベトナムを含めた東南アジア諸国に伝わったのです。

日本のエビの輸入先は、ほとんど東南アジアから、中でもベトナムからが一番輸入量が多いそうです。世界的にみてもベトナムは中国に次いで2番目に養殖生産量が多い国となっています。ベトナムのマングローブ林破壊の原因の一つとして、日本が大きく関わっているというのはなんとも悲しいですね。

さらなる被害。マングローブ消失による今後の懸念事項

森林伐採による環境破壊で近年懸念される問題は、地球温暖化による海面上昇。以前なら水没を免れていた農地も、海水が内陸部まで侵入してくることで塩害や地下水の塩水化など多大な被害をこうむります。

沿岸部に分布するマングローブも少なからず影響を受けます。特に地盤高が低く、水に浸る時間が長い生育限界ぎりぎりの場所で育っていた木々は、海面上昇の影響により水に浸る時間が増え、結果枯死してしまうことになりかねません。

もちろんこの自然の防波堤のおかげで土地の浸水被害を抑えてた沿岸部の村々も、その死によって相当なダメージを受けると予想されます。

植林と伐採、再生と破壊が同時に行われるこの地の問題は、楽天的にはとても考えられない段階に来ています。

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