外国人の採用をしたいと思っても、いったい何から始めればいいのか分からない方も多いでしょう。
どういう手続きが必要なのか?
就労ビザの取得が大変と聞くけど具体的には何をすればいいのか?
今回の記事では外国人材を迎え入れる際の基本的な流れを8つのステップに分けて解説したいと思います。
事前調査
外国人採用を始める前に必ずやるべきことは「任せたい業務はどの種類の就労ビザに該当するのか?」を事前に調べることです。
外国人は基本的に日本で就労することが認められていません。しかし、事前の許可を受けた上であれば、一定の制限のもとで就労が可能となります。これが就労ビザ(正確には就労可能な在留資格)のしくみであり、許可された就労ビザの種類によって従事できる仕事とできない仕事がわかれます。
例えば、『技術・人文知識・国際業務』の場合、海外営業や貿易事務、法務、経理、人事などのオフィスワークは可能ですが、飲食店のホールやキッチン、機械の組み立て、レジ打ち、タクシー運転手など、専門知識や複雑な思考を伴わない繰り返しの作業はできません。単純作業系の仕事をするには、『特定技能』や『技能実習』『技能』『永住者』『日本人の配偶者等』『特定活動』などの在留資格を取得する必要があります。
募集
求人の業務と適合する就労ビザが明らかになったら、その許可を既に有している、もしくは許可が見込める人材を集めます。募集においては以下の方法が選択肢として考えられます。
- 外部の求人サイトで募集する
- 自社の求人ページで募集する
- SNSで募集する
- ハローワークなど公的サービスを利用する
- 人材紹介や人材派遣サービスを利用する
- ジョブフェアに参加する
- ターゲットとなる国に行って採りに行く
- 学校から就活生を紹介してもらう
- 友人から紹介してもらう
- 現在働いている外国人社員から紹介してもらう
多様な手段があるので募集方法を計画するときに困ってしまいますね。実際、日本人と勝手の違う外国人募集において、どの方法が自社に合っているのか迷う会社が多いようです。
そのような場合は、自分で調べることと並行して外部に相談することをお勧めします。下記の窓口はいずれも無料であり、外国人雇用の支援実績が豊富なコンサルタントもいるので有益な情報が得られるはずです。
書類選考
募集方法が決まり、3ヶ月も運用すればある程度の応募が集まります。続いては、自社が求める人材像に適合しているか書類を確認します。
このとき、外国人ゆえに注意をしなければならないことがあります。具体的には、
- 就労ビザを保有しているか?その期限は3ヶ月以上あるか?
- 就労ビザを保有していない場合、今持っている在留資格の種類と期限はいつまでか?
- 学歴欄には学校名だけでなく、学部や専攻内容も書かれているか?
- 職歴欄に書かれている内容はフルタイムのものか?それともインターンシップやアルバイトのことか?
- 日本語に関する資格等は合格したのか、受験予定なのか?
などです。
「そんなことも注意しないといけないのか!?」と感じる事柄もあるかもしれません。しかし、日本式の履歴書は世界標準ではなく、正しい書き方を知らない人たちは意外と多くいます。大丈夫だろうと油断して選考を開始し、採用してみたら就労ビザが取れなかった(もしくは更新できなかった)なんてことにならないよう、確認すべき事項を明らかにしましょう。
注意したいのは、履歴書が正しく書けていないからといって直ちに不合格にしないことです。そのことは、仕事の能力や学習能力、人柄とはそれほど関係がないからです。世界的に見て日本ほど書類作成の作法が統一的な国はないので、むしろ日本人の基準が異常だと捉えた方が合理的です。書類選考の目的は、応募者に確認すべき事項は何か?をはっきりさせることに主眼を置くのが良いでしょう。
また、当てはまるケースは少ないのですが、「大学卒業」と書いてあっても実際は夜間コース等で限られた単位しか履修しておらず学位を取得していなかったり、日本語能力試験とよく似た名前の別の試験(例えば、日本語力試験2級)が書かれていたりすることもあるので、そのあたりは卒業証書や合格証書などを別途請求して、事実確認をした方が良いでしょう。応募者本人も正しく区別できていないことがあります。
さて、履歴書を読み、本人に確認を取った結果、就労ビザを持っていないことがわかったら、今持っている在留資格から変更することを具体的に検討しなければなりません。応募者が学生の場合、学校の成績証明書や卒業見込み証書、各種試験の合格証書などを追加で確認し、自社の業務に適合する就労ビザが取得できるかを事前にある程度確かめておく必要があります。
頻出するケースをひととおり書きたいのですが、記事が非常に長くなってしまうため、最も一般的な就労ビザの一つ『技術・人文知識・国際業務』についてここでは述べます。『技術・人文知識・国際業務』を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
※分かりやすさを重視し、かなり簡略化して書いています。
- 応募者が学歴要件もしくは職歴要件を満たし、その専門性と業務内容とに関連性があるか?
※関連性の判定は、専門士(2年生の専門学校)の場合とても厳しくなります。より詳しく知りたい方は『専門学校に通う留学生の在留資格「技術・人文知識・国際業務」変更申請、成功の鍵は雇用理由書にあり』をご覧ください。 -
- 学歴要件で許可申請を行う場合:
- 短期大学卒業以上の学位もしくは日本の専門学校を卒業しているか?
※短期大学士、学士、修士、博士、Associate、Bachelar、Master、Doctor、商業専門士、工業専門士、高度専門士、準学士などが該当します。
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- 職歴要件で許可申請を行う場合:
- 10年以上の実務経験があるか?
※通訳、翻訳、デザイナー、貿易、語学講師など一部の職種は、実務経験3年で許可されます。これらは「国際業務」という分類に該当するからです。
採用を検討する段階で行政書士や弁護士などに相談するのは、コスト面で難しい企業もあるかと思います。そういった場合、上に述べた無料の相談窓口では在留資格に関する相談も可能なので、ぜひ積極的に使ってみると良いでしょう。
※但し、相談枠は豊富に用意されていないので、時間はかかってしまうでしょう。
面接
書類選考によって有望な応募者か見極めた後は面接です。外国人の面接における質問例として、下記が気になるのではないでしょうか。
- 日本で働きたい理由
- 志望理由
- 将来のキャリアプラン(母国に帰りたいのか、永住する予定なのか)
- これまでの勉強や仕事の経験
- 日本および自社で働く上で心配なこと
これらの質問は必ずと言っていいほど聞かれるので、多くの応募者は回答を準備しています。つまり、本音は探りづらい類の質問ということです。したがって、あくまで上の質問はきっかけであり、質疑応答を繰り返す中で本心を確かめてみてください。この点は、日本人の採用面接と同様だと思います。
本音を感知しやすくなる工夫として、日本で働く外国人の背景や置かれている状況を頭に入れておくと役立ちます。例えば、外国人が日本で働きたい理由について、代表的なパターンをおさえておけば、目の前の応募者が何を本当は求めているのか捉えやすくなるでしょう。
また、外国人採用の面接においては、質問するだけでなく自社の姿勢や入社のメリットを伝えるようにしましょう。筆者の経験で言うと、多くの外国人の方は仕事や生活面で同じ不安を抱えており、そこを察知して先回りしてケアしてあげると入社意欲が高まります。以下は、その一例です。
- (外国人を既に雇用している場合)外国人社員と直接会話する機会の用意
- (社内の制度・文化的に可能であれば)2週間以上のまとまった休暇が取れる旨の説明
- 就労ビザの取得や更新、永住権申請、家族滞在等の申請を会社として手伝う旨の説明
- 社宅、住宅手当、家探しなど住居確保を会社として手伝う旨の説明
新聞やネットニュースを見ると「給与が低くなっている日本は外国人から選ばれなくなっている」などと書かれていますが、実際にはそこまで給与第一主義な人はおらず、むしろ安全・安心な環境に魅力を感じて日本を選ぶ人が多いように感じます。賃上げが実施しづらい業界・職種の企業が自社の優位性を伝える一つの工夫として精神面のケアは機能します。
内定
内定を出すときは、労働条件を知らせる文書(「内定通知書」「雇用契約書」「労働条件通知書」など)を作成することが多いと思います。基本的には日本人の採用で使用するフォーマットと同じで構いませんが、以下の点は一度検討すべきでしょう。
- 内定通知書に「この雇用契約は、日本で就労可能な在留資格が不許可になった場合、無効となる」と但し書きを追記する。
- 通常よりもかなり詳細に仕事内容(Job Description)を記載する。
- 内定者の母国語や英語で雇用契約書や労働条件通知書を用意し、内容を詳細に理解できるよう配慮する。
- 固定残業代や有給休暇の時季変更権など、外国人には馴染みのない日本の慣習を事前に説明する。
- 配属や仕事内容、勤務地が変わる可能性があるなら、どのような場合・条件のもと変更が生じるのか説明する。
内定辞退を恐れて都合の悪そうな情報は話さない人をこれまでたくさん見てきたのですが、これは悪手です。結局、早期離職につながる原因になるのはもちろんのこと「選考時の説明と入社後の扱いが全く違った!」と言われます。日本にいる外国人には、その人たちのコミュニティが存在しており、具体的な社名・担当者名を伴って悪評が広まってしまい、それ以降の採用活動にも悪影響を及ぼします。
(嘘か真かはさておき)不当な扱いをされたと感じたら声を上げるのは、一般的な日本人と異なる外国人全体の特徴と言えますので、都合の悪いことこそ事前にしっかり開示しましょう。その上で、お互いに合意できる着地点を探す方が建設的です。
在留資格など公的機関の手続き
雇用契約が成立したら、就労ビザを申請します。前述した通り、正式には「就労可能な在留資格」の許可申請といいます。就労可能な在留資格の許可申請には、主に4つのパターンが存在します。
- まだ日本に来ておらず、現在在留資格を有していない人が行う『在留資格認定証明書交付申請』
- 既に日本に来ているが、就労できない在留資格を有していたり、仕事内容の関係から別の種類に変えなければならなかったりする人が行う『在留資格変更許可申請』
- 既に日本に来ており、就労可能な在留資格を有していて、変更する必要もないが、あと3ヶ月以内で在留期限が切れてしまう人が行う『在留期間更新許可申請』
- 既に日本に来ており、就労可能な在留資格を有していて、変更する必要もなく、期限も3ヶ月以上残っている人が行う『就労資格証明書交付申請』
1.〜3.は必須ですが、4.は任意の申請です。
また、在留資格の他に『所属(契約)機関に関する届出』も忘れず行いましょう。これは、会社ではなく内定者が自分自身で行うべきものなのですが、この届出を怠ると在留資格の申請に悪影響を及ぼす可能性があります。当然、それは雇用する企業にとっても不都合です。そのため、届出漏れが起きないよう会社からリマインドしてあげることが重要です。雇用契約を締結した日から14日以内に行わなければならないので、その点も要注意です。
そして、『外国人雇用状況の届出』も必須の手続きです。雇用保険被保険者となる場合は、雇用保険の手続きを行うことで完了できるのですが、雇用保険被保険者にならない場合に届出漏れが生じやすくなるので要注意です。
最後に内定者が引っ越しを行い、現住所が変わるのであればその届出を市区町村及び入国管理局に対して行うことも忘れてはいけません。こういった届出は、日本における在留状況の良・不良を判断する要素となり、在留資格申請の結果に影響し得るためです。会社の方でも適切に届出がなされたかどうかは確認しましょう。
受け入れ準備
公的機関に対する手続きのほか、企業でも必要な準備をしておきます。人や会社によって内容は異なりますが、よくあるのは以下のものです。
- (外国からの呼び寄せの場合)航空機の手配
- 入社研修・日本語教育カリキュラムの用意
- 社宅・寮など住居の手配
- 業務マニュアルの多言語化
- 指導社員や管理者に対する外国人雇用研修
受け入れ準備は、やろうとすれば際限なく続いてしまうので、最低限やらなければならないことだけに集中するのが賢明です。誤解を恐れずに言えば、どれだけ準備しようと必ず入社後に問題は発生します。我々が普段何気なく「外国人」と呼んでいる彼らは、想像するよりもずっと多様な存在なので、受け入れ準備を初期に確立しようとするのは無理な話です。問題に直面したとき、迅速かつ柔軟に個に配慮した対策を講じるしかありません。道のりは長いので、じっくり臨みましょう。
入社
入社手続きに関しては、基本的に日本人社員と同様です。前述のとおり、雇用保険被保険者になるのであれば、その手続きと同時に『外国人雇用状況の届出』を済ますくらいの話です。
まとめ
今回の記事では、外国人材採用を8つのステップに分けて解説しました。流れ自体は日本人採用と同様なのですが、注意すべき事項や手続きが少し多くなっています。最初は負担が大きいと感じると思いますが、一つ一つクリアしていくことで社内に新しい風を吹き込むことができます。
最近は外国人雇用に関する情報も数多く発信されているので、先行事例を研究しながら、自社の創意工夫で多国籍チームを作り上げていってください。
高度外国人材に特化した人材コンサルタント。人材探索から在留資格申請、入社後の日本語教育、ダイバーシティ研修等、求人企業の要望にあわせた幅広いサービスを提供する。また留学生専門キャリアアドバイザーとして東京外国語大学、横浜国立大学、立教大学、創価大学等で外国人留学生の就職支援を行い、80カ国・500名以上の就職相談を受ける。内閣官房、内閣府、法務省等の行政および全国の自治体における発表や講演実績も豊富。